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華陽ニュース
不定期配信 平安文学と紙 9 住吉物語・落窪物語
「光る君へ」をきっかけに『源氏物語』以外の平安文学に興味を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。
「光る君へ」から連想される様々な平安文学を、「紙」に注目しながらご紹介させて頂きます。
9 住吉物語・落窪物語
『枕草子』212段で「物語なら住吉、うつほ」と真っ先に挙げられた『住吉物語』と、散逸しなかった『源氏物語』以前の作り物語3作のうち1作の『落窪物語』がともに「継子いじめ」の物語、というのはとても想像をかき立てられる逸話ではないでしょうか。
残念ながら原本は散逸したため、現在私たちが読める『住吉物語』は鎌倉~室町期に改作されたものだと言われています。そのためか、あるいは「継子いじめ」という共通のテーマのためか、似ている部分が多い2作ですが、紙の描写については『住吉物語』の方が色鮮やかなようです。
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中納言家で継母から冷遇されている美しい姫君の話を聞いた少将。姫君に求婚の手紙を送りますが、『御文、薄にさしてあり』、手紙は薄にさしてあります。
またある日、中納言家のみんなが石山詣でに出掛けてしまい、継母の意地悪で同行を許されなかった姫君は侍女と二人、お留守番をしています。姫君が退屈して絵を見たがっている、と聞いた少将は、『白き色紙に、こゐひさして口すくめたる形を描き給ひて』、白い色紙にしょんぼりと口をつぐんでいる人の絵を描いて、何度も求婚の手紙を送っているのに返事もくれない人に絵なんか見せたくありません、と姫君をからかいます。(『落窪物語』)
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少将は姫君に何度も手紙を送りますが、紙や手紙に付ける植物に言及してあるのはこの2か所くらいで、それも『薄』『白き色紙』と色味に欠けています。
一方の『住吉物語』で、主人公の姫君を恋い慕う男性も官職は同じ少将。母が客と話しているのを立ち聞きして姫君の存在を知った少将は、その客に姫君への仲介を頼みます。
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『紅葉襲の薄様に』、紅葉襲(赤と濃い赤、あるいは赤と青)の薄い雁皮紙に、「今日降った初時雨が紅葉を色濃く染めるその深さほどに、貴方に恋をする私の思いも深いものです」という歌を書いて、少将は姫君に送りますが、姫君は返事をしません。ひたすら手紙を送り、思いを募らせる少将ですが、その話を聞いた姫君の継母の企みに引っ掛かり、姫君と思いこまされて姫君の異母妹(継母の娘)と結婚してしまいます。やがて騙されていたことに気づいた少将は、姫君への思いが断ち切れず、『はかなくて五月になりぬれば、菖蒲の根に薄様引き結びて』、5月の節句に、菖蒲の根に薄様の手紙を付けたり、『いつもより時雨隙なき夕暮れに、深き紅葉の枝に文をつけ』、また次の時雨の時期に色濃い紅葉の枝に付けたりして姫君に手紙を送り続けますが、姫君は、手紙自体は風流だと思うものの、異母妹の夫なのに自分に求婚してくる少将を困った人だと思うばかりなのでした。(『住吉物語』)
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『住吉物語』の方が『落窪物語』より紙の描写が華やかなのは、ひょっとしたら『住吉物語』の方が後の時代の改作物語だからなのかもしれません。『落窪物語』を読み、『源氏物語』を読み、『交野の少将』などの別の物語も読んだ改作者が、原作の『古本住吉物語』を改作する際に、紙の描写も『源氏物語』などに倣って追加した、といったら、素人の勝手な妄想、と笑われてしまうでしょうか。
※ご紹介した文章は華陽紙業にて意訳したものとなります。キャラ設定と最初のストーリーは似通っているのに、全編を通して何となく喜劇的な『落窪物語』とシリアスな雰囲気を漂わせ続ける『住吉物語』、是非読み比べてお楽しみ下さい。