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華陽ニュース

不定期配信 江戸ネタ 30

今年の大河ドラマ「べらぼう」の舞台、江戸。文化の担い手が特権階級から町民へと広がり、政治に与える経済の影響が拡大するこの時代には、様々な文化や風習が新しく生まれ、現代へとつながっているものもあります。
江戸時代の出版や紙、風習や様々な出来事などについて、小ネタをご紹介致します。

30 「よしの冊子」

 世論を気にせずやるべき施策を粛々と進める、というのが為政者の理想でしょうが、なかなかそうはいかないのが人の常。「僕が一生懸命やっていること、みんなにちゃんと伝わってるかな?」と松平定信が気にしていたのかどうか。天明から寛政にかけての幕府の政治や関係者の噂、世情などの情報をせっせと集めて定信に伝えていたのが、定信の家臣、水野為長で、彼の報告書「よしの冊子」の抜き書きが現代に伝えられています。
 「佐竹家の江戸家老がペンネームで黄表紙を書いていた。定信様が『彼は執筆の才能はあるけど家老の器じゃないよね』と佐竹の殿様に話したので、江戸家老は解任されて国元に帰された」。そんな話が「よしの冊子」に書かれたのは寛政元年4月のこと。これは、人気作家が藩から執筆を止められたことが市中に伝わり、定信様の意向ではと噂になったことを聞きつけて水野為長が定信に報告したものだそうです。実際には定信がクレームを入れたかどうかは定かではないそうですが、これを聞いた定信は、自分の施策と権威が市中に伝わっていることを実感したかもしれません。
 とはいえこの「よしの冊子」、定信の耳に心地よい話だけを伝えたわけではなさそうです。「汗水を流して習ふ剣術も御役にたたぬ御代ぞめでたき」。そんな狂歌も「よしの冊子」には書き留められているとか。泰平の世に武芸を奨励した定信の目に、絶版になった黄表紙に通じる揶揄を秘めたこちらの狂歌はどう映ったのでしょうか。