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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話76 利他的な紙

「どうしたの、コマキさん。何か難問?」
「お疲れ様です、シート先輩。このメーカーさんの取り扱い品種を確認していたのですが、『工程紙』の意味が分からなくて。」
「ああ、工程紙。工程紙は、上質紙、とか、コート紙、とかとは違う分類だからねえ。」

「工程紙って『何かをつくる工程で使う紙』ってことなんだけど、何をつくるかで必要とされる品質も規格も全然違ってきちゃうから、こういう紙、って言えないんだよね。」
「例えば上質紙だったら、『晒化学パルプを100%使用した非塗工印刷用紙』ですよね。そういう品質上の決め事がないってことですか?」
「ないというか、場合によって違うというか。『何かをつくる工程で使う紙』だから、食事をつくる工程で使う紙、も、薬をつくる工程で使う紙、も、全部工程紙なんだよ。」
「その例で言うと、肉まんをふかすために使うクッキングシートも、薬をつくる時に使うクリーンルーム用紙も、どちらも『工程紙』ということですか?」
「合成皮革のベルトをつくる時に使う型紙、なんてのもあるよ。そしてその3つは、要求される品質が違うから、どれも全く別物でしょ。」
「でもどれも工程紙だから、工程紙ってこういうもの、という説明が難しいということなのですね。」

「それにしても、ベルトの芯じゃなくて模様をつけるためにも紙が使われているのですね。」
「紙って型を付けるとその形が残るでしょ。この性質を紙の塑性変形って言うんだけど、それを使って、金型で紙に型を付けて、その型紙に樹脂を塗って裏地を付けて型紙を剥がすと、合成皮革が出来上がる。そんな風に使われているんだよ。」
「金唐革紙のつくり方に似ていますね。板木に箔押しした原紙を挟んで型を付ける方法が。他にも、紙の、意外な使われ方ってありますか?」
「木目調だけど木製じゃない家具とかカウンターなどの化粧板も紙だって知ってた?」
「いいえ。薄い板を張ってあるのだと思っていました。」
「基材は木片からつくったパーティクルボードや木質繊維板なんだけど、模様の部分は印刷した紙なんだよね。三層になってて、基材に近い方からコア紙、パターン紙、オーバーレイ紙っていうんだけど、中層のパターン紙に木目やその他の模様が印刷されてるんだよ。」

「DNAブックっていうのもある。20年くらい前に理化学研究所が開発した、DNAを紙に固定して本の形にしたものなんだけど、この本の紙には水溶紙が使われたんだ。受け取った方は紙を溶かせば目当てのDNAを取り出すことができる。従来の菌自体を冷凍して送る方法より解凍や菌からDNAを取り出す手間がないし、論文と試料を一緒に送ることもできるって話題になったんだよ。」
「海外にも以前より簡単に送れるようになったのですね。」
「紙の電気絶縁性を活かした電気絶縁紙っていうのもあるね。コンデンサーなんかに絶縁材として組み込まれているし、電子部品をつくる時に余分な電流が流れないように工程紙として使われている例もあるよ。」
 

「工程紙って、少し可哀そうな気がします。」
「可哀そう?」
「型紙にしてもクッキングシートにしても、製品をつくるのに大切な役割を担っているのに、いざ製品ができたら捨てられてしまうのですよね。それまでの貢献はなかったみたいになって・・・」
「確かに。そういう意味では、とても利他的な紙だよね。」
「私には見習えそうにありません。それができたのは私のおかげなのに、って言ってしまいそう。」
「僕も。でも、まあ、それが人間ってことで。」
「工程紙を見習ってもっと心の広い人間になれるよう頑張ります。」
「コマキさんにあまり頑張られると、僕の立つ瀬がなくなるかも・・・」