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不定期配信 平安文学と紙 5 和泉式部日記

「光る君へ」をきっかけに『源氏物語』以外の平安文学に興味を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。
「光る君へ」から連想される様々な平安文学を、「紙」に注目しながらご紹介させて頂きます。

5 和泉式部日記

 道長に「浮かれ女」とからかわれ、紫式部に「けしからぬ方」と書かれた和泉式部の、10か月の恋を描いたのが『和泉式部日記』。「日記」とはありますが、登場する女性は「女」と三人称で書かれていて、当時の女性が書く日記の「物語性」を感じさせる文章となっています。
 男女の恋の様子が中心で、道具類はおろかお互いの容姿さえほとんど描写されていない『和泉式部日記』ですが、1か所、紙が出てくる場面があります。

 親王のひとりと付き合っていた女。親王が若くして亡くなった悲しみを、その親王の弟宮の声を聞くことで紛らわせようとするうちに、弟宮との親交が始まり、やがてそれは恋にと発展します。
 とはいえ、宮は前の天皇の弟であり、今の皇太子の弟でもある貴い身分で、気軽な外出など許されない身。二人は逢うよりも歌を交わすことで恋を深めるのでした。
 ある雨の日、物思いにふける女のところに、「どうしていますか」と宮から手紙が届きます。
「この季節に雨が降るのは当然と思っているでしょうが、これは貴方を恋しく思う私の涙なのですよ」
という歌に感動した女は、
「宮様の涙だとは知らず、ただ私の頼りない身の上を思い知らせるための雨だと思っていました」
という御返しの歌を書いて、かみのひとへをひきかへして、その紙の一枚を裏返して、
「生きていると世間の辛さが身に染みるのでいっそもっと降って流されてしまえば良いと思います。私がこの長雨に流されてしまったら、流れ着くのを待って拾ってくれる岸はありますでしょうか。」
と書いて送ったのでした。
  

 『源氏物語』に「緑の薄様の、好ましきかさねなるに」「姫君、檜皮色の紙の重ね」といった表現がありましたが、この時代、女性たちは薄様を重ねて色合いに意味を持たせ、手紙でも季節感を楽しんでいたそうです。上のやり取りは5月になったばかりの五月雨の頃。紙の色は描写されていませんが、夏の襲のどんな色目が使われたのか、想像が広がります。
 
 
※ご紹介した文章は華陽紙業にて意訳したものとなります。年下で振り回され気味の宮と恋多き年上女性、という関係が次第に変わっていく様子も面白い『和泉式部日記』、是非原文でお楽しみ下さい。