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華陽ニュース
不定期配信 マウスちゃんとメモリ主任のIT1年生48
情報の重要性が増す昨今、弊社では情報セキュリティについて、その意義や情報を共有する取り組みを続けています。
担当チームが社内向けにまとめた資料などを基に、軽い読み物を不定期でお届けできればと思いますので、ご笑覧頂ければ幸いでございます。
お昼休み。スマホの画面をにらむマウスちゃん、ちょっと怖い顔になっています。
「どうしたの、マウスさん」
イーさんが恐る恐る声を掛けます。
「聞いて下さい、イーさん。私、ECサイトで本を買うことがあるんですけど」
「僕もあるよ。それで?」
「あれって、次にログインしたときにおすすめの本が表示されるようになるじゃないですか。」
「あるね。同じジャンルとか、同じ読書傾向の人の買った本とか。」
「そう、それ。それなんですけど。」
「?」
「微妙に私の好みから外れたものばかりおすすめしてくるんですよ!」
「・・・なるほど」
「私の買ったのと同じジャンルだっていうのはわかるんですけど、著者さんによって中身が全然違うのに、『こういうのが好みでしょ』って言わんばかりにおすすめされても!好きな著者さんの新刊情報なんかは表示してほしいから、おすすめを非表示にしたり、読んだ本をおすすめに使わない機能は使えないんですけど、好みじゃない本ばかりすすめられるのもストレスが溜まって・・・って、何笑ってるんですか、イーさん!」
「ごめん。何か良いなって思って。・・・でも、それくらい好みから外れている方が良いのかもしれないよ。」
「どうしてですか?」
「本当に自分の好みど真ん中っていう本ばかりすすめられて、そういう本しか読まなくなるのって、怖いなって。・・・マウスさん、『エコーチェンバー』って知ってる?」
「知ってます。意見や価値観が似ている集団のなかで発言すると、同じような意見や価値観の発言がエコーみたいに返ってきて、増幅されて、最後には自分の意見や価値観が絶対正しいんだって信じ込んじゃう現象です。」
「そうだね。同じような意味の言葉で、『フィルターバブル』っていう言葉もある。」
「検索サイトが利用者の履歴を学習して、好きだろうと思われるサイトを優先的に表示して、嫌いだろうと思われるサイトを表示しなくなることですよね。あ、なんかおすすめ機能に似てるかも」
「そう。検索サイトのフィルターで見たくないサイトが遮断されて、泡で保護された中で見たい情報だけに囲まれることから『フィルターバブル』って呼ばれてる。元々は利用者が得たい情報に苦労なく辿り着けて、広告の効果も上げられるっていう親切さから開発された機能だったんだと思うけど、その機能のおかげで、人は自分の考えを否定する意見や誤りを正してくれる意見に、インターネット上では触れにくくなってしまった。」
「自分ではインターネット上で広く情報を探しているつもりなのに、実は検索サイトが取捨選択した後の情報にしか触れられていない、ってことですね。」
「本当はインターネット世界は広く開かれた空間なのに、その中に、似た意見や価値観を持つ人々のコミュニティーが、それぞれ分断された形で林立しているような状態になってしまった。そういう状態を指す言葉で『サイバーバルカン化』っていう言葉もあるんだって。」
「でも、現実世界でもそういうことってありますよね。この前、友達とちょっと言い争いになったことがあって。」
「言い争い?」
「2人が好きな俳優さんがいて、友達はその人のことを『あんなに良い俳優さんなのにあまり売れてないよね』って言うんです。CMにもテレビにもあまり出ていないからって。でも私はその人が映画や配信で連続で主役をやっていたのを観たので、とても売れてるんじゃないかなって反論して、それで言い争いに。」
「なるほど。お友達はCMやテレビっていう情報からのみ、マウスさんは映画や配信っていう情報からのみ判断して、意見が食い違ったってことだね。それは『確証バイアス』ってものかもしれないな。」
「確証バイアス?」
「ある意見を持っているときに、その意見を補強する情報ばかりが目に付いたり、そんな情報ばかりを収集するようになって、意見を否定する情報は目に入らなかったり軽く考えてしまったりする現象のことなんだって。お友達は『あんなに良い俳優さんなのに思ったほど売れていない』っていう不満を持っていた。その不満を肯定してくれる、CMもあまり持っていない、テレビにもあまり出ていない、っていう情報だけを積み上げてしまう。好きな俳優さんなら当然主役をやったのは知っているんだろうけど、その情報は軽視してしまったのかもしれないね。」
「確証バイアスか・・・自分の意見を補強してくれる情報をあえて求めに行ってしまうんですね。」
「そうだね。で、自分にとって良い情報にのみ『いいね』を押したり、そんなサイトばかり閲覧しに行ったりすると、検索サイトの方もそれに応じて、どんどん自分にとって良い情報しか表示しなくなる。こういうのも相乗効果って言っていいのかな?」
「インターネットのそういう機能を理解して、世の中には自分と違う意見もたくさんあるし、自分が信じている考え方も誤っているかもしれないって思いながら情報と接する必要があるのかもしれないね。」
「そうですね。おすすめに好みじゃない本が出てくるのも有難いくらいに考えないといけないのかも・・・そう言えば、イーさん、エコーチェンバーとかフィルターバブルとか、詳しいんですね。」
「ごめん、実はメモリ主任の受け売り。この前ちょうどそんな話になって、詳しく教えてもらったんだ。」
きまり悪そうな顔で笑うイーさんに、『あんなにメモリ主任のこと怖がってたのに・・・!』と感慨を覚えると同時に、これって私たち二人とも、メモリ主任のつくったフィルターバブルのなかにいるってことなんじゃ・・・と思いついてしまい、思わず身震いするマウスちゃんなのでした。