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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話60 越前和紙

「お疲れ様、コマキさん。ずいぶん風流なランチョンマットだね。」
「お疲れ様です、シート先輩。今年はまだ紅葉狩りに行けていないので、雰囲気だけでも味わおうかと。」
「葉っぱが漉きこんである。落水紙だね。」
「姉が先日美濃に紙漉き体験に行ったので、そのときのお土産です。」
「ああ、僕も以前、紙漉き体験で葉入りのをつくったな。でも、この落水紙の技術って」
「元は越前和紙の技術なのですよね。先日先輩に教えて頂きました。」

「美濃和紙の話をしたときに、そんな話もしたっけ。」
「大礼紙の話をしたときにも越前和紙の話が出ましたね。鳥の子のときも、奉書のときも。そう考えると、越前和紙は和紙のいろいろな技術の源なのですね。」
「越前はちょっと特別だからなあ。前にも話したかもだけど、日本でこれは絶対国産の紙って分かってるのは、702年の美濃を含めた3地区の戸籍の紙だし、製紙道具の石臼を初めてつくったのは600年ごろに渡来した高句麗の曇徴っていうお坊さんだっていう記述があるんだけど、それよりさらに前の500年代初めには越前に紙漉きの技術が伝わっていたっていう伝承があるんだよね。」
「前にお聞きしたかもです。川上御前の伝承ですね。」
「そう。山間の村に謎の姫が現れて紙漉きを教えてくれたって話。この村が越前、今の福井県越前市の五箇っていう地区で、姫は川上御前としてここにある岡太神社に祀られている。紙祖神とも呼ばれるね。だから、越前って、紙に携わる人間には聖地みたいなところなんだよね。」

「歴史があるというだけでなく、いろいろな優れた紙を生み出した名産地という意味でも聖地のようなものですね。」
「そうだね。紙の王とまで言われた越前鳥の子、丈夫で美しくて日本だけじゃなく海外の画家さんにも愛されたと言われている越前生漉き奉書、昭和の始まりとともに生まれた大礼紙。ほかにも、縮緬皺のある檀紙ってあるよね。あれは元は奈良時代にマユミが原料だった紙で、楮でつくるようになった平安時代には陸奥紙のことだったんだけど、江戸時代には越前も著名な産地のひとつになっていた。もともと檀紙の皺は室内で縄にかけて干したせいでできた皺だったから、板に張り付けて干したら皺が無くなっちゃったのを、刷毛で人工的に皺をつける方法を開発したのも越前。現代では宮内庁に納められる檀紙は越前産だって話だよ。」
「独自開発するだけでなく、他の技術も取り入れて、更に元の技術を上回るように改良して、というところでしょうか。」
「開発や改良と言えば加工紙である美術工芸紙もそうだよね。漉き上がった紙に模様を写したり、水をかけて水玉模様にしたり、金粉や銀粉で装飾したり。元は襖紙として開発されたものだけど、包装紙やインテリア、紙小物をつくるための用紙として今でも使われているんだよ。」

「明治時代にパリ万博で好評を博した局紙は、大蔵省印刷局で漉かれたから『局紙』なんだけど、これも技術指導したのは越前和紙の職人さんだった。そういう意味でも越前というのは特別な場所だよね。」
「日本人にとってだけではなく、海外の方でも和紙の聖地=越前、と思われている方もいるかもしれませんね。」
「越前和紙を目玉のひとつにしたインバウンド誘致も考えられているみたいだからね。まあ、それは美濃和紙も同じだけど。」
「このランチョンマットのように、紙漉き体験ができて、できあがった紙をお土産にできて、という体験ができれば、それを目当てに来日して下さる方も増えるかもしれませんね。」
「コマキさんみたいに、本当に日常使いにする人は珍しいかもしれないけどね。・・・待って、さっき、『姉』って言った?」
「はい。このランチョンマット、姉が体験で漉いたものなのです。」
「ロール先輩の手づくり・・・こんな風に使って、怒られない?・・・・・・」

※文中、敬称略