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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話61 加賀・能登の和紙

「おはよう、コマキさん。寒くなったねえ。」
「おはようございます、シート先輩。もう師走ですからね。」
「2024年も終わるねえ。過ぎちゃうとあっという間だったなあ。」
「そう言えば昨日姉が金箔入りのお酒を買ってきました。お屠蘇にするそうです。」
「もう新年のことっていうのがロール先輩らしいね。金箔入りか。どんな味なのかな?」
「以前、金沢旅行のお土産ということでスイーツを頂いたことがあります。特別な味はしなかったような・・・」
「金箔は金沢の名産品だものね。そう言えばコマキさん、金箔をつくるのに紙が必要だって知ってた?」

「金箔って、金にごくわずかな銀や胴を混ぜて溶かしたものを帯状に延ばして、どんどん叩いて薄く大きく延ばしていくんだけど、その最後の仕上げの過程で箔打ち機っていう機械にかけるときに、箔と箔の間に紙を挟み込んで箔打ち機で叩いて仕上げるんだ。この紙が箔打ち紙。縁付金箔っていう伝統的な製法では、箔打ち紙に和紙を使う。雁皮紙を卵と柿渋と灰汁を混ぜた液につけて、陰干しして叩いて乾かして、を数回繰り返して、透明で滑らかになったものを金箔の間に挟んで使うから、和紙の表情が金箔にも移るんだって。箔打ち紙の質が金箔の出来を左右するという話もあるくらいで、箔打ち職人の方は箔打ち紙の出来にも神経を使うそうだよ。」
「雁皮紙がベースなのですね。」
「もとは兵庫県の名塩鳥の子が使われたそうだよ。名塩では鳥の子を漉くのに地元の土の粉を混ぜていたんだけど、そのおかげで耐熱性が出て、鳥の子、つまり雁皮紙だから肌が滑らかで、箔打ちに向いている、っていうことになって、江戸の末期から箔打ち紙をつくるようになった。石川県では金沢市の二俣とか能美の川北町というところが箔打ち紙の産地で、地元の金箔の箔打ち紙に使われているんだけど、つくるようになったのは名塩より後のことみたいだね。」

「石川県だと加賀奉書も有名だったのですよね。」
「どちらかというと『加賀奉書が有名だった』、かな。以前に、貴族から武家に紙の消費者が拡大したときに杉原紙っていう紙が武士の間で大人気だったっていう話をしたけど、この杉原紙が加賀でも漉かれて、加賀杉原、後に加賀奉書と呼ばれる紙になった。原料は楮で、白皮を煮るのに草木を燃やしてできる灰汁を使ったんだけど、青ズイキの茎でつくった灰汁で煮ると綺麗な光沢が出るっていうんで、江戸時代に幕府に献上するためにつくった加賀奉書には青ズイキの灰汁を使ったっていう話が残っている。」
「『越前鳥の子と加賀奉書が最高級の紙』と称えられたのも、青ズイキの灰汁を使ったものだったのかもしれませんね。」

「加賀だけじゃなくて、能登でも和紙は漉かれているよ。輪島市の仁行っていう地区の能登仁行和紙と呼ばれる紙で、漉かれるようになったのはごく最近だけど、画仙紙とか杉皮紙、野の花を漉きこんだ紙などがつくられている。遠見さんっていう方が昭和24年に始められたものでね、今はこの方の義娘さんとお孫さんが跡を継がれているんだけど、義娘さんは石川県の伝統工芸士にも選ばれている方なんだよ。」
「和紙の歴史からみると最近のことですね。」
「加賀和紙の歴史は古いよ。以前話した『延喜式』には加賀も税として紙を納めるべき国と記されている。それに比べると能登仁行和紙は若い紙だとも言えるけど、自分で原料やその配合から初めてつくり上げた能登画仙紙や杉皮紙はその素朴な風合いが愛されているという話だよ。」

「そう言えば、箔打ち紙は箔打ち紙としての役目を終えた後はあぶらとり紙に使われたんだって。」
「あぶらとり紙ですか?」
「金箔と一緒に叩かれてさらに薄く滑らかになった箔打ち紙にあぶらを吸収する力があるってことで、『ふるや紙』とか『風呂屋紙』とか呼ばれて重宝されたそうだよ。今のあぶらとり紙はあぶらとり紙としてつくられた紙なんだけどね。」
「叩かれて叩かれて利用されて、その役目が終わった後も別の役目が待っている。たくましいですね。」
「そう言えば、大福帳って知ってる?商人さんが売買とか入出金とか、お客様との取引状況を書き記していた帳簿なんだけど、火事になると商人さんはこの大福帳を井戸に投げ込んで守ったんだって。」
「水の中にですか?」
「そう。鎮火したら引き揚げて、すぐに商売を再開できるように。だから、大福帳には、厚くて丈夫で水に投げ込んでも破れたりしない和紙が使われた。大阪なら石州半紙、江戸なら細川紙、美濃和紙は全国的に、といった風にね。」
「それもまた、たくましい話ですね。」
「和紙はもともと洋紙に比べて繊維が長いし、昔ながらの伝統的な原料や製法の和紙には劣化しやすい薬品が使われていないからその点でも丈夫だ。あと、和紙はその誕生時から再生されて何度も使われるものだった。」
「そういう意味でも、丈夫で、たくましくて、粘り強い素材だということですね。」
「そうだね・・・来年もいろいろあるだろうけど、どんな時も和紙みたいに粘り強く、たくましくいられたら良いね。」
「そうですね。・・・何だか、もう今年が終わってしまったかのような締めですが。」
「ああ・・・そう言えばまだ今年のあれこれが終わってなかった・・・・・」
「大丈夫ですか、シート先輩。和紙みたいに、を忘れていますよ。」

※文中、敬称略