1. HOME
  2. KAYO NEWS
  3. 【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話67 非フッ素耐油紙

KAYO NEWS

華陽ニュース

【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話67 非フッ素耐油紙

「お疲れ様です、シート先輩。あの、それは・・・」
「お疲れ様、コマキさん。今日のお昼はどうしてもカレーが食べたくて」
「・・・それでレトルト調理器を?」
「便利だよね、レトルト。常温で長期保存できるし、食べたくなったら簡単に温められるし。」
「いえ、レトルトの便利さは今更というか・・・まあ、でも、そうですね。食品に触れる包装が難しいなか、レトルトがとても優秀なパッケージだということは分かります。」
「条件が難しいもんね、食品パッケージ。衛生は勿論、耐水とか、耐油とか。」
「そう言えば、ここ1~2年でずいぶん増えましたよね、『非フッ素』をうたう耐油紙。あれは、何故、『非フッ素』なのですか?」

「PFASって聞いたことある?」
「フッ素化合物の?」
「そうそう、より詳しく言うと、『有機フッ素化合物』のうち、『ペルフルオロアルキル化合物』と『ポリフルオロアルキル化合物』の総称が『PFAS』。主に炭素とフッ素で構成されている化学物質で、1万種類以上の物質が『PFAS』に分類されるんだって。」
「1万種類もあると、特徴もいろいろ違いそうですね。」
「うん。でも基本的には炭素とフッ素が安定して結びついているのが『PFAS』だから、水や光、微生物による分解や代謝に強い、っていう特性は共通しているみたい。で、その中に、撥水や撥油、熱安定性といった特徴を発揮できるものがあって、幅広い用途で使われるなかに、紙の表面処理剤っていう用途もあるんだって。」
「それでフッ素系の耐油紙が生まれたのですね。別に何も問題はないような・・・」
「PFASの一種で、幅広い用途で使われている化学物質のなかに『PFOS』と『PFOA』の2つがあるんだ。『PFOS』は半導体とか電子回路基板、金属メッキや消火剤なんかに、『PFOA』は界面活性剤とか、他のフッ素化合物をつくるための助剤に使われるものなんだけど、難分解性や生物蓄積性といったやっかいな特徴がある。」
「分解されにくくて、体内に溜まっていくということですか?」
「そういうこと。なんだかマイクロプラスチックに似てるね。で、まあ、蓄積し続けて行った結果、人間や環境にどういう影響があるか分からないっていう観点から、PFOSは2009年、PFOAは2019年に「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」の対象物質に追加された。それを受けて日本では2010年にPFOS、2021年にPFOAの製造・輸入が原則禁止になった。それによって新たにPFOSやPFOAがつくられることはなくなったんだけど、昔流通していたものが残っている可能性はあるし、水の問題もあって、2026年度から水道の水質基準が引き上げられて、定期検査も義務化されるんだよ。」

「・・・それじゃあ、フッ素使用の耐油紙を食品に使ってはまずいのでは・・・」
「あー!!ごめん、ごめん、誤解させたね。食品とか、あとフライパンとか、撥水スプレーとか、身の回りの製品に使われているフッ素は、PFOSでもPFOAでもない、別のフッ素樹脂なんだ。特にPFOSについては、日本国内で家庭用品の製造に使われていたっていう報告はないって、環境省は明らかにしている。PFOAについてはかつてフッ素系コート剤の製造過程で使用されていたそうだけど、法律で規制される以前に企業の自主的な取り組みで全廃されたって。だから今使われているフッ素樹脂がまずいわけではもちろんないんだけど、PFOSとかPFOAへの規制が厳しくなって、PFAS自体の使用を見直す潮流があって、非フッ素の耐油紙がPRされるようになっただけ。もともと製紙業界では早くから非フッ素の耐油紙を上市していたんだけど、コストの問題もあって、一度撤退したメーカーもあった。このところPFASを避ける動きがあったり紙用のフッ素系の耐油剤をつくっていた化学メーカーが製造を中止したりっていう動きがあって、非フッ素耐油紙に力を入れる製紙メーカーが増えたんだよ。」

「非フッ素耐油紙って、どのメーカーがどんなものを販売しているのですか?」
「有名どころだとこんな感じかな」

O-hajikiシリーズ 王子ホールディングスの王子エフテックスが製造・販売する非フッ素耐油紙。プラスチック素材を使用していないため、脱プラ・減プラにも貢献。晒の「O‐hajiki(W) CoC」、未晒の「O-hajiki(B) CoC」、FDAの基準に適合した「O‐hajiki(W)FDA CoC」がある。
パピ・タイユ(FF) 日本製紙グループの日本製紙パピリアが製造・販売する非フッ素耐油紙。紙を構成する繊維各々に耐油剤を付着することで、紙の隙間を埋めないため、必要な耐油性を実現しながら水蒸気がこもったり結露したりしにくく、食品のクリスピー性(カリッと感)を保つのが特徴。
FS耐油紙FF 大王製紙が製造・販売する非フッ素耐油紙。FDAに準拠したフッ素を含まない耐油剤を使用。片艶紙の使用で印刷適性にも配慮している。
NF耐油紙 特種東海製紙の耐油紙。高い耐油性と優れた通気性を両立している。

「リンテックも非フッ素耐油紙を製造・販売してるし、今後も増えてくるかもしれないよね」

「今までの食品用の耐油紙って言うと、フッ素耐油紙か、表面にラミネート加工を施した紙が主流だったんだけど、フッ素だけじゃなくてプラスチックを削減する動きもあって、非フッ素耐油紙の存在価値が今まで以上に高まるんじゃないかって予想されているんだよ。」
「各メーカーでそれぞれに特徴があるように、今後はフッ素フリーだけではない、付加価値の高い製品も出てくるのかもしれませんね。」
「今のレトルトカレーって紙箱の中にレトルトの袋が入ってるけど、そのうち耐油紙の紙箱にそのままカレーが入ってるようになるかも。」
「スープとか一部の輸入食品で紙のカートンに入ったものなら既にありますよ。」
「えっと、じゃあ、そのままレンチンできて、リサイクルもできるものとか。」
「リサイクル・・・においの面で課題が残りそうですね。」
「いや、まあ、実現には課題だらけかもしれないけど。」
「においと言えば、シート先輩、大丈夫ですか?」
「何が?」
「カレーです。午後、確か、ブック常務と打ち合わせだったのでは・・・」
「・・・1日間違えてた!」