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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話69 紙コップ・紙パック

「あれ、コマキさん、ここにいたんだ。」
「お疲れ様です、シート先輩。ご用でしたか?」
「違うよ、僕も休憩しに来ただけ。最近、温かい飲み物が沁みるよね。・・・ああ、脳にも効いてる気がする。」
「良かったです。それにしても、紙コップってすごいですね。」
「これ?」
「はい。温かい飲み物も冷たい飲み物も受け止めてくれて、飲み終わるまでちゃんと強度を保っていて、液体が浸み出ることもない。すごい技術だなって思います。」
「僕はコマキさんが持ってるのもすごいなって思うけど。」
「紙パックですか?」
「うん。もちろん、未開封で『常温保存可能』って書いてあるものに限ってだけど、ジュースとか牛乳とか、取り扱いに注意が必要そうな飲み物が、紙ベースの容器で常温保存できるってすごいなと思う。」
「確かに。直射日光に当てないなど、取り扱いに注意が必要なのは変わりませんけど、そもそも常温保存できることがすごい技術ですね。」

「常温保存可能な『ロングライフ』紙パックにはアルミ箔が使われているのですよね。」
「あと、ポリエチレンだね。原紙とアルミ箔をポリエチレンでサンドするような構造で、5~6層になっていることが多いよ。液体に触れるところから順に、ポリエチレン、紙、ポリエチレン、アルミ箔、ポリエチレンっていう順番なんだって。」
「アルミ箔は光や酸素が侵入しないようにする役割ですよね。ポリエチレンは?」
「一番内側のポリエチレンは紙に液体が直接触れないようにして、耐水性を確保する役割だね。あとは紙とアルミ箔をくっつけたり、紙容器をつくるときの接着の役割をポリエチレンが果たしている。」
「中身を守りつつ、耐水性や製造を考えた構造なのですね。」
「もちろん、中身の食品自体が滅菌処理されていないといけないけどね。それに、当然、容器そのものも滅菌されていないといけないし、充填する環境自体も無菌じゃないといけない。そういう無菌充填システムが揃っていて初めて、ロングライフ製品として消費者の方にお届けできる、というわけ。」

「紙コップにはアルミ箔は使われていないのですよね?」
「一般的にはそうだね。紙コップは、原紙にポリエチレンをラミネート加工してつくるんだよ。で、胴の部分を打ち抜いて、くるっと丸めて端をくっつけて、ちょっと底を上げて、底紙をつけて、飲み口の部分をカールさせて出来上がり。」
「飲み口がカールしているのは、飲料を入れたときに形を保つためなのですよね。」
「そう。だからカップ原紙には、カールがつくれる柔らかさと、コップとしての強度が保てる硬さの両立が求められるんだ。それに中に入れるものとか温度によって、紙厚や品質も適したものが製造されている。」
「紙コップだけじゃなくて、原紙にも、様々な技術や工夫が積み重ねられているのですね。」
「紙コップはもともとラミネートが再生の妨げになるからってことでリサイクル禁忌品だったけど、最近は再生の取り組みも進んでいるよね。そういう意味では、ライフサイクル全体が技術の集積って言えるんじゃないかな。」

「そう言えば、最近はレトルトパウチでも、容器に移さずそのまま電子レンジ加熱できるものが増えたよね。あれはアルミの代わりに同程度の酸素や水蒸気などの遮蔽機能のあるプラスチックフィルムを使っているからなんだけど、紙パックでもそういうのがあるんだよ。」
「アルミを使っていない紙パックということですか?」
「そう。紙容器と充填機をセットにしたシステムとして販売されている。アルミの代わりに使っているのはバリアフィルム。」
「レトルト食品なら、そのまま電子レンジ調理したいっていうニーズがあるのは分かりますけど、紙パックはあまりチンしないですよね?」
「電子レンジにかけたいからじゃなくて、アルミ箔を使わないことで、一般的なルートで回収してリサイクルできる環境配慮型の紙容器にしたい、っていうニーズのためだそうだよ。リサイクルできれば、二酸化炭素排出量の削減にもつながるしね。」

「コマキさんは紙コップが何故開発されたか知ってる?」
「いえ、知りません。」
「防疫のためだったんだって。20世紀初めのアメリカで、長距離列車の中で水を飲むときに、最初は銅製のコップを共有してたんだけど、そこから伝染病が発生したんで、使い捨ての紙コップに代えたって話。」
「そう言えば、レトルト食品はアメリカで軍事用に開発されたのだという話を聞いたことがあります。ただ、一般の消費者向けに商品化したのは日本の方が先だとか。」
「日本つながりで言うと、日本で紙コップが最初につくられたのは1930年なんだけど、用途は飲料用じゃなくてアイスクリームのカップとしてだったんだって。飲料用として日本で紙コップが使われるようになったのはもっと後、1964年の東京五輪や1970年の大阪万博で知名度が上がってかららしいよ。」
「何だかそう聞くと、日本の紙容器の技術開発って食欲由来のような気が・・・」
「・・・まあ、罪のない動機ってことで、良いんじゃないかな・・・・・・」