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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話72 壁紙①

「・・・」
「考え事?コマキさん」
「紙を張った障子、というか衝立が初めて日本の家屋で導入されたのは奈良時代以前なのですよね?」
「奈良時代の文献に出てくるから、それ以前には伝来していたんだろうなって考えられているよ。」
「そうなのですね。では、壁紙は?」
「壁紙?」
「平安文学の寝殿造りの絵を思い浮かべていて。襖や障子や衝立など紙を張った建具は色々思い浮かぶのですが、壁紙ってそう言えば張ってたのかなって考えていました。壁紙を張った壁、というのが明確にイメージできなくて・・・」

「日本でも壁に紙を張った歴史はあるけど、少ないらしいよ。明確に文献に残っているのは、中世末期になって茶室がつくられるようになってからだって。」
「茶室ですか?」
「茶室って狭いでしょ?服と壁がこすれて壁土が落ちたり服が汚れたりするのを防ぐために、壁の下の方にだけ紙を張った。『腰張紙』っていう名前で、美濃紙や鳥の子紙、反故紙が使われたものもあったんだって。」
「反故ですか?!」
「といっても、ただの書き損じじゃないけどね。例えば、織田信長の弟で茶人だった人がつくった茶室が残ってるんだけど、この茶室には『腰張紙』として古い暦が使われているんだ。ほかには、湊紙っていう堺市でつくられていた再生紙があるんだけど、これも茶室の腰張紙として使われていたっていう記述が『雍州府志』っていう書物に残っているんだよ。」
「日本における壁紙の誕生ですね。」
「というと違うらしいんだけど、茶室建築において普通に使われるようになった初め、くらいかな。『雍州府志』には湊紙の事を『その色淡黒にして其状粗悪なり』って書かれててあまり質の良い紙ではなかったらしいんだけど、こすれ防止だからね、それで事足りたらしい。」

「でもそれではデザイン的に寂しい気がします。」
「多分同じように考えた人がいたんだろうな。『雍州府志』の90年後くらいに出版された『新撰紙鑑』という本に、青土佐紙っていう紙が腰張紙に使われたっていう記述が残っている。青土佐紙は楮紙を藍で染めたもので、人気があったのか、京都や大阪でも類似品がつくられたんだって。」
「腰張紙に色を求める需要が出てきたということですね。」
「それだけじゃなくて、京都や大阪では雲土佐や更紗土佐、友禅土佐なんていう模様をつけた紙もつくっていたそうだよ。青土佐は縦8寸6分、横1尺2寸5分のの紙で、これに模様をつけて壁に張っていたんだって。」

「そう言えば前に、平安時代に絹や紙を張った障子が誕生したっていうって話をしたね。」
「はい。襖とか唐紙とか呼ばれていた障子ですね。」
「そう。その唐紙障子の唐紙はもともと中国の唐から来た紙、っていう意味だったんだ。もともとはお経や文章などを書くための料紙として輸入されたもので、国産の和紙がつくられるようになってからも輸入は続いていた。でも、平安時代になると」
「遣唐使の廃止、ですね。」
「そういうこと。で、交易が途絶えたから唐紙も手に入らなくなった。しばらくは在庫が残ってたみたいだけど、やがて無くなって、それでも料紙は唐紙じゃないとっていう需要があったんでつくられたのが国産の『からかみ』。唐紙のなかでも紋唐紙っていって模様のある紙を真似して、紙に具引き加工して雲母と薄い膠で模様を刷るっていう方法とか、具引きした紙を板木の上にのせて貝殻なんかでこすって光沢のある模様をつけるっていう方法で再現した国産のものが『からかみ』とか『唐紙』として使われるようになったんだ。」
「手間もかかっていますし、高級料紙ですよね。」
「そうだね。でもその高級料紙は筆記のためだけじゃなくて建具用紙としても使われた。平安末期の貴族の日記に、障子に絹や唐紙を張ったものを用意した、という記述があるから、その頃にはもう既に唐紙は建具用紙として使われていたと考えられるね。」
「だんだん生産が増えて、平安時代の末頃には記録用だけじゃなく日常道具としても使えるようになった、ということでしょうか。」
 

「で、この唐紙なんだけど、さっき話した『新撰紙鑑』のなかに、『壁色紙』として使っていたっていう記述があるんだ。」
「襖に使われていたものが壁にも使われるようになったということですね。」
「桂離宮の書院の壁には唐紙の一種の京からかみが張られていて、壁紙として唐紙が使われた古い例のひとつだとされている。何度も修理されているから創建の時から唐紙が使われていた、とは言えないみたいだけどね。」
「日本でも壁紙が普通に使われるようになっていたということでしょうか?」
「とは言えないみたい。江戸から明治期の日本では壁紙としての需要より襖としての需要の方が多かったから、襖紙を扱う紙商が壁紙も販売していたくらいだそうだよ。一方で、当時のイギリスの領事が日本の紙についての報告書を本国に上げているんだけど、それには雁皮紙、松葉紙、土佐紙、千年紙、間似合紙といった唐紙を含むいろいろな紙が腰張紙として使われているっていう記述があるんだ。」
「外国の方も日本の壁紙に興味があったのですね。」
「興味があるどころか、この報告には日本の紙の見本が付けられていたんだけど、壁紙用紙の見本として80以上の紙名が記されたリストが残っている。イギリスでも日本の和紙が壁紙に使えるって彼らが考えていた証拠なんじゃないかな。」

紙に関する四方山話73「壁紙②」に続きます。