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不定期配信 源氏物語の紙10

高貴な血筋ながら時代遅れでちょっとずれているのが面白い、というキャラクターとして描かれる常陸の親王の姫君に対し、姫君ほど高貴な生まれでも育ちでもないけれど気品も才気も愛嬌もあって可愛らしい、というキャラクターとして描かれるのが「玉鬘」。源氏の恋人で急逝する「夕顔」と源氏の親友/ライバルの「内大臣」との間の娘ですが、母親の夕顔が外出先で急に亡くなって行方不明になってしまったことで、乳母に連れられて筑紫の国に赴き、そこで育ちます。美しく、品があって、おおらかで、と理想的な姫君に成長した玉鬘ですが・・・

第22帖「玉鬘」②

 玉鬘は乳母の夫である大宰少弐の孫ということになっているので、それならちょうど良いお嫁さん、ということなのか、土地の人々から降るように求婚の手紙が舞い込んできます。なかでも厄介なのが、肥後の有力者の「大夫の監」。自分こそ人望があり玉鬘にふさわしいと信じてやまない彼は「唐の色紙香ばしき香に入れしめつつ」、薫りのよい香を十分に焚きしめた高級輸入紙に、それなりに綺麗な筆跡の恋文を送ってきます。ただ、自分では風情があるように書けたと思っているその文章は、ひどく訛っているものでした。
 慌てて逃げだす玉鬘一行はなんとか京にたどり着き、偶然、源氏の女房と出会います。実はその女房は、母の夕顔の侍女だった「右近」。源氏と右近は夕顔の遺児を手元で育てたいと、ずっと行方を捜していたのでした。
 右近から玉鬘のことを聞いた源氏。すぐにも自邸に迎えるのかと思いきや、噂だけを聞いて行動して失敗(?)した常陸の親王の姫君の例もあるし・・・とまずは手紙を送って様子を伺います。実の父でもないのに、としぶる玉鬘に女房たちが書かせた返事の紙が「唐の紙のいとかうばしき」、香を良く焚きしめてある高級輸入紙に、田舎じみているだろうし恥ずかしいと思いながら玉鬘は返事を書き、筆跡は頼りなくたどたどしいけれど、品があって見苦しくはない、と源氏はほっとするのでした・・・

 土着の有力者で田舎者として描かれる「大夫の監」と、その田舎者を嫌って京に逃げ出す「玉鬘」。そのどちらもが、ここ一番という時に使う紙は同じ「唐の紙の香ばしき」であるのがちょっと面白い、『玉鬘』の一節です。

※華陽紙業にて紙に関する記述がある部分を抽出し、崩して訳した文章となっております。興味がおありの方は、是非、原文でお楽しみ下さい。

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