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華陽ニュース
不定期配信 源氏物語の紙12
玉鬘と姉弟のように親しくし、近江の君から「この人、タイプ!付き合いませんか?」と告白されるのが源氏の息子「夕霧」。父は源氏、母は皇族の血を引く正妻という嫡子で、源氏に似た容姿や資質として描かれていますが、なぜか『不憫』とか『残念』という言葉が浮かぶ場面が多いキャラクターでもあります。他の人が遊んでいるときに勉学することを申しつけられ、高位貴族の子息なら四位程度から始められるはずの官位も六位から上がっていくことを強いられ、幼馴染で恋人の「雲居の雁」とは引き裂かれ、・・・。それでも雲居の雁との結婚のお許しを得られるように、と地道に勉学や仕事に励む夕霧ですが・・・
第28帖「野分」
ある秋の日、台風が来て調度や庭の花などもすっかり吹き乱されてしまいます。翌日、源氏に女君たちを見舞うよう言いつけられた夕霧は、雲居の雁に台風のお見舞いの手紙を書かなきゃ、と思いながら、源氏の妻や娘たちの住まいの様子を見て回り、父に様子を報告します。明石の姫君(夕霧の異母妹)のお見舞いに伺うと、姫君はまだ怖がって奥に引っ込んでいる、というので、待つ間、紙と筆を借りて雲居の雁への手紙を書くことにした夕霧、「ことごとしからぬ紙やはべる。」、何か大げさでない紙はありませんか、と尋ねて紙と筆をもらい、手紙を書きます。紙は「紫の薄様なりけり」、紫色の薄様でした。
この紫の薄様に、夕霧は吹き乱された刈萱(刈り取ったかや)をつけて送ることにします。古歌をモチーフにした、夕霧としては意味のある植物の選択でしたが、女房たちから「交野の少将は、紙の色にこそととのへはべりけれ」、交野の少将なら紙の色と植物を合わせますよ、と言われてしまいます・・・
「交野の少将」は現存しない物語の主人公で、女性にもてるキャラクターとして描かれていたそうです。平安時代にはよく読まれていたようで、物語の登場人物である夕霧が別の物語のキャラクターに比べて劣ると言われる、面白い構図となっています。
この夕霧、本人評価では真面目で一途な人物として描かれていますが、惟光(源氏の従者)の娘や亡き親友の妻に恋慕する場面もあり、特に亡き親友の妻に恋着する様子は「真面目とは・・・」と現代人を悩ませてしまうだろうキャラクターでもあります。妻のひとりとなる惟光の娘への最初の恋文には「緑の薄様の、好ましきかさねなるに」、緑の薄様を感じよく重ねたもの、と気を遣っている様子が描写されていますので、「そりゃあ、もらった高級紙に枯れた草の組み合わせじゃあ、批判されるのも当たり前だよ・・・」というところなのかもしれません。
※華陽紙業にて紙に関する記述がある部分を抽出し、崩して訳した文章となっております。興味がおありの方は、是非、原文でお楽しみ下さい。