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華陽ニュース
不定期配信 源氏物語の紙14(終)
長編の『源氏物語』のなかで、ひときわ紙にスポットライトが当たっていると思われるのが、「梅枝」の一節かもしれません。
源氏と「明石の君」の間の娘、「明石の姫君」の入内が決まり、調度類などを準備する源氏。嫁入り道具の草子箱に入れる習字のお手本を集めるため、昔の能書家の草子を集めるほか、いろいろな人に書いてもらったり、自分でも書いたりしていますが・・・
第32帖「梅枝」
「高麗の紙の薄様だちたるが、せめてなまめかしきを」、高麗の紙で薄様風なものがとても優美なので、若い人たちを試してみようと、夕霧や柏木などに「飾り文字でも和歌の絵でも好きなように書いて下さい」と渡します。
源氏自身も一人で古い歌や草仮名、平仮名など、いろいろな草子を書いており、「白き赤きなど、揭焉(けちえん)なる枚(ひら)」、白や赤など、はっきりと墨色が目立つ紙は、特に注意して書いています。
そこへ兵部卿の宮が依頼された草子を持ってやってきて、源氏はその筆遣いをほめ、自分のも見せます。「唐の紙の、いとすくみたるに」、縮緬状の唐の紙に草仮名を書いているのがとりわけ良いと宮は思いますが、「高麗の紙の、膚こまかに和うなつかしきが、色などは華やかならで、なまめきたるに」、高麗のものできめが細かく優しい感じで、色は華やかではないけれど品がある様子の紙に平仮名が書いてあるものも比類なく素晴らしい出来です。「またここの紙屋の色紙の、色あひ華やかなるに」、また、紙屋院で漉かれた、国産の華やかな色合いの料紙に、草仮名が乱れ書きしてあるものも見飽きないと、宮はずっと見ています。
若い人の書なども批評しあうなかで、兵部卿の宮は自邸から昔の帝たちの宸筆を持ってこさせて源氏に贈ります。延喜の帝が古今和歌集を書かれたものは「唐の浅縹の紙を継ぎて」、浅縹色の輸入紙を継いだ紙に、軸や組紐なども厳選された優美な草子で、とても見事に書かれたものでした・・・
各国の紙の華麗なる競演、といった場面に、源氏が姫君の入内に深く心を配っている様子がうかがえます。他の場面では「畳紙の手習いなどしたる」、懐紙に走り書きしたようなものが見つかって「この畳紙は右大将の御手なり」と密会がばれたりする、落差の激しい源氏ですが、筆者は場面場面で使う紙を変えることで、読者の想像をより鮮明にする役割を紙にも与えているのかもしれません。
※1年間、視聴者を楽しませて下さった『光る君へ』。『紙』に印象深い見せ場がいくつも与えられていたことに感動した”紙推し”の方も多かったのではないでしょうか。
当サイトの『源氏物語の紙』は今回で終了ですが、『源氏物語』には他にも紙が登場する場面がいろいろあります。是非、原文でお楽しみ下さい。