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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話49 セルロース

「おはようございます、シート先輩。今朝は寒いですね。」
「おはよう、コマキさん。あっという間に年末だよね。」
「年末までにやらなければならないことが山積みですけど。」
「でも、その後、コマキさんには楽しい旅行の予定が控えてるでしょ?」
「そうですね。先輩はどんなご予定かお聞きしても?」
「今年は早めに実家に帰ってぎりぎりまでいるつもりだよ。餅つきとか、百人一首大会とか、カロムとか、年末年始の家の行事も、やっといつも通りやれそうだしね。」
「お餅!うちはスーパーで買います。」
「うちももう、臼と杵じゃなくて餅つき機だけどね。ただ、うちでついたときだけ食べられる、できたてのあんころ餅が美味しくて・・・」
「きなこも良いですよね。」
「すき焼きに入れるとかね。そう言えばコマキさん、お餅と紙は同じ仲間だって知ってた?」

「以前に先輩が『お米と紙は仲間だ』と仰っていたことは覚えています。確か、ブドウ糖つながりとか。」
「ブドウ糖というか、グルコースね。紙の主成分はセルロースでお米の主成分はデンプンだけど、それはどちらもグルコースがたくさんつながってできた『多糖類』だから仲間だねって話をしたかな。」
「手のつなぎ方が違うのですよね。」
「グルコース同士が結合するとき、どんな風に手をつなぐかで、つなぐことでできる分子の形状が変わる。この手のつなぎ方を『アルファ型』と『ベータ型』っていうんだけど、デンプンは『アルファ型』で、結合することでらせん状の構造になる。」
「セルロースは『ベータ型』なのですね。」
「そう。『ベータ型』で結合したできたセルロース分子は直線状の構造になる。このセルロース分子同士が集まることでできるのがセルロースミクロフィブリルっていうセルロース分子の集合体。これがさらに寄り集まって大きくなったのがセルロース繊維で、これにリグニンとかヘミセルロースとかの別の要素が加わって植物という形ができている。」
「元がブドウ糖だから紙は水に弱いのですね。」
「あ、それは誤解。紙は元をただせばセルロース分子の集まりなんだけど、このセルロース分子はとても強固な結晶構造で、セルロース分子自体には水もなかなか入り込めないんだ。『紙は水に溶ける』って思ってる人が多いかもしれないけど、紙は水で繊維がバラバラになるだけで、その繊維、つまりセルロースが水に溶けることはないんだよ。」
「では紙が水や湿気に弱いのは・・・」
「それは水素結合のせい。水素結合って、セルロース分子の余った手、水酸基っていうんだけど、その水酸基同士が引き合う力で結合してることを指すんだ。セルロース分子が長くつながった中で多くの水素結合が起こるから、強い力になるんだけど、残念ながらこの水素結合に水が入り込むと水酸基同士じゃなくと水の分子と手をつないじゃうんだよね。水素結合の数が減って繊維同士が引き合う力が弱くなるから、水に濡れた紙は繊維同士が離れてしまう、つまり、破れやすくなるっていう仕組みなんだよ。」
「仲の良い2人の間に別の誰かが入り込んで、最初の2人が疎遠になる、という感じですね。」

「デンプンの話に戻ると、デンプンには種類があって、さっき言った、グルコースがアルファ型で結合したのが『アミロース』、そのアミロースにさらにグルコースがくっついてらせんがところどころで枝分かれしたようになってるのを『アミロペクチン』って言うんだ。で、普段食べてるご飯の元のうるち米は『アミロース』と『アミロペクチン』、お餅の元のもち米は『アミロペクチン』でできているんだって。」
「それで、『お餅と紙は仲間』という、最初の話につながるのですね。」
「人間はセルラーゼを分泌できないから、紙は食べられないけどね。」
「セルラーゼが分泌できたら、シート先輩、百人一首の札も食べてしまいそうですね。」
「それは嫌。セルラーゼが分泌できなくて良かったよ。カロムよりバームクーヘン食べる方が良いし。」
「そうですね。・・・ところで先輩。」
「?」
「『カロム』って何ですか?」
「・・・・・・」

※文中、敬称略