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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話⑤古紙

「はあ・・・間に合った・・・」
「おはようございます、シート先輩。今朝は遅かったですね。」
「おはよう、コマキさん。今日ペットボトルの回収日で・・・出勤前に、キャップとラベルを分けて、洗って、ってしてたら遅くなっちゃった。」
「そう言えば少し前に新聞で読みました。使用済みのペットボトルの入札価格が上がっているという記事で・・・日本の使用済みペットボトルは、キャップやラベルが分別されているから、良品として海外からも引き合いがあると書かれていました。」
「分別が大事ってことかな?」
「古紙もそうですよね。」
「そうだね。ただ、日本の古紙リサイクルシステムが窮地に陥っているという記事が、最近掲載されているね。」

1.日本の古紙回収・利用状況

「日本には古くから一度使った紙を再生して使う風習がありますよね。」
「平安時代の『宿紙』とか江戸時代の『浅草紙』とかね。洋紙だと、脱墨パルプが製造され始めたのが1950年代で、その頃から古紙利用が増え始めたとされている。その前も製紙原料として使われてたんだけど、1960年代頃の大量生産・消費の時代になると使った紙もごみとして捨てられる分が増えて、リサイクルの必要性が改めて提唱・認識されるようになって、今のような回収‐再生のシステムが作り上げられていったんだって。」
「日本の2019年の古紙回収率は79.5%、古紙利用率は64.4%。これは世界でもトップクラスの回収率・利用率だと言われています。ところで先輩、『古紙回収率』と『古紙利用率』って、どうやって計算するのですか?」
「公益財団法人古紙再生促進センターさんでは

古紙回収率=(国内製紙メーカーの古紙・古紙パルプ入荷量+古紙輸出量-古紙輸入量)/(国内製紙メーカーの紙・板紙払出量+紙・板紙輸入量-紙・板紙輸出量)

古紙利用率=(古紙消費量+古紙パルプ消費量)/(繊維原料合計消費量)
※繊維原料=パルプ+古紙パルプ+古紙+その他

で出していらっしゃるね。」
「2019年で考えると、製紙メーカーさんが使われた繊維原料のうち、64.4%が古紙か古紙パルプだったということですよね。・・・何だか、実感しているより多いような気がします。」
「品種で利用率が違うからじゃないかな。例えば、2019年の累計の古紙の消費量は1,650万トンくらいなんだけど、このうち、印刷用紙なんかの紙向けで消費されたのが475万トン、段ボールを含む板紙向けが1,175万トンくらいなんだ。紙の2019年累計の生産量は1,350万トン、板紙は1,190万トンだから、単純に割ると、紙の古紙利用率は35%、板紙は98%ということになる。まあ、生産量=繊維原料消費量ではないから、この計算は正確ではないんだけど、日本製紙連合会さんによると、板紙の古紙利用率は93%以上、紙は40%以上に達していて、これ以上伸ばすのはかなり難しい数値だそうだよ。」
「難しい、ですか?」
「板紙はそもそも90%を超えているわけだから、これ以上伸ばすのは難しい。紙の方はまだ余地があるように見えるけど、品質の問題で原料として使える古紙が限られてくるから、こちらも利用率を伸ばすのはかなり難しいんだって。」

2.古紙回収網に迫る危機

「回収率は高い。利用率は限界に近い。となれば、余る分が出てくるわけで、この余剰分は今まで輸出に回されていた。」
「中国ですね。中国の古紙の需要が旺盛で、2018年11月には古紙価格が最高値になったという話もありました。」
「2018年の段階では、輸出古紙の7割程度が中国向けだったからね。」

「でも、中国当局の環境規制強化の影響もあって2019年に入ると急速に輸出量が減りましたよね。」
「もともと中国当局には2018年の時点で、2020年末までに古紙輸入をゼロにしたいという方針があったんだ。古紙、というか、『固体廃棄物』を、だけど。米中貿易摩擦の影響などで需要が減少したのもあって、中国への古紙輸出が減少。古紙再生促進センターさんの資料によると、2018年度(2018年4月~2019年3月)には279万トンだった古紙輸出が、2019年4月~2020年1月段階の実績は128万トン。前年同期比51.7%になっていて、重量ベースでの国別構成比も47.6%にダウンしている。」
「期間が違うから単純比較はできませんが、かなり減少していますよね。」
「古紙輸出全体も2019年4月~2020年1月だと270万トンで前年同期比83.8%。これは重量ベースで、金額ベースだと同49.9%まで落ち込んでいる。」
「輸出単価が下落している?」
「そういうことだね。当然日本の国内でも単価の下落が起こっている。日本経済新聞が『古紙、再利用「優等生」に影』っていう記事を掲載したのは2020年2月2日だけど、その記事の中で

・中国向け輸出の減少で国内古紙在庫が急増。
・古紙の市中買い取り価格が低下。
・採算が合わず、古紙回収業者の一部が事業停止や、一部地域での回収から撤退。
・消費者、自治体、企業でつくり上げてきた古紙回収網の維持が困難になりつつあるとの指摘。

っていう状況が指摘されているんだ。」

3.分別と禁忌品

「中国が古紙輸入を制限しているのは、古紙に『ゴミ』が多く含まれていると考えているからですよね。でも、古紙=廃棄物、というのは違和感があります。」
「そう。実はそこに解決法があるという考え方がある。つまり、日本の古紙の品質の高さ、日本の古紙はゴミではないんだよということをアピールして、資源として輸入してもらおうという考え方だね。」
「その品質の高さを守るのが、分別、なのですね。」
「そうだね。古紙のなかで多いのは段ボール古紙や新聞古紙なんだけど、基本、段ボール古紙は段ボールに、新聞古紙は新聞用紙に、っていう具合に、元の製品に再生されることが多いんだ。分別がされていないと、回収業者さんで余分な仕分けのコストがかかって、割に合わないから撤退、っていうことになりかねない。あと、加えて問題になるのが」
「禁忌品、ですね。」
「そう。使用済みの紙のなかには、紙だけど、あるいは紙っぽく見えるけど、紙として再生できないものがある。それが禁忌品。古紙再生促進センターさんが、『なぜ古紙回収に出してはいけないのか』も含めて詳しいリストを作成されているけど、よくありそうなものを抜粋すると、

かばんや靴を買ったときに詰められている緩衝紙、
裁縫用の型紙、
アイロンプリント用の紙
『昇華転写紙』という品種の紙が使われていることが多く、取り除けずに混ざってしまうと再生紙に斑点ができてしまう。
複写伝票や宅配便の伝票など 使われているのは『カーボン紙』や『ノーカーボン紙』。複写用に紙に塗布されているインキが取り除けず、再生紙に斑点ができてしまう。
圧着はがきや粘着テープなど 糊が完全に取り除けず、機械や再生製品に付いてしまう。
紙コップや紙皿など、防水加工された紙 溶けないため、製紙原料にできない。
マスクやおしぼりなどの不織布
ポスターや地図などに使われる合成紙やストーンペーパー
雑誌の付録として付いているDVDや
化粧品サンプルなど
そもそも紙ではないのでリサイクルできない。製紙工場の機械の故障の原因となることもある。

においや汚れが付いた紙が回収に出されることはそうそうない・・・と思いたいけど、出してしまう人もいるみたいだね。勿論それも禁忌品だよ。」
「ストーンペーパーが古紙に混ぜて出されないかという心配もあるみたいですね。そもそも紙ではないので古紙リサイクルのシステムでは処理できませんから、使用後どうすれば良いのかは製造メーカーに問い合わせて頂く必要があります。」

「『混ぜればゴミ、分ければ資源』と言われますけど、紙でも同じですね。」
「正しく分別することで再利用できるものを資源化するというのは、資源循環型産業である製紙のシステムの重要な要素の一つだからね。分別にしても禁忌品にしても、まだまだ広く伝わっていない部分もあるから、少しでも皆さんにお伝えしていけるといいな。」
「そのためにも、私たち自身が日頃から正しく分別回収して、再生紙製品を使うようにしなければいけないですね。」
「そうだよね・・・日頃からちゃんと分別しておけば、今日みたいに遅刻しかけることもないんだよな・・・」
「先輩?そんなに落ち込まなくても・・・大丈夫ですよ。紙だって何度も生まれ変わるんですから、先輩だって・・・」
「先輩だって?」
「・・・えっと・・・・・・」