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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話55 大礼紙・奉書紙・杉原紙

「お疲れ様、コマキさん。その紙、どうしたの?」
「シート先輩、お疲れ様です。今度、ブック部長が常務になられるので、その挨拶状用の紙です。」
「大礼紙か。挨拶状にはぴったりだよね。」
「奉書紙の方が良いのかな、と迷ったのですが。」
「個人的には、華やかさなら大礼紙、って感じかな。大礼紙の方が歴史が新しいし、軽やかな感じがする、と思う。」
「大礼紙の方が新しい紙なのですか?」
「大礼紙は昭和になるときに生まれた紙だからね。奉書紙は中世生まれだよ。」

「大礼紙というと、羽根のような繊維束が漉き込まれて散りばめられているのが特徴ですよね。」
「地元では『花』とか『華』って呼ぶらしいよ。」
「地元というと?」
「福井県。福井県和紙工業協同組合様等のサイトによると、もともと大正時代には繊維の結束を散らして『花』をつくる技法が和紙職人の方によって考案されていたんだって。その後、昭和天皇のご即位式=大礼でこの紙が使われて、それにちなんで『大礼紙』って名付けられた。ちなみに『大礼』『本大礼』『レーヨン大礼』は福井県和紙工業協同組合の登録商標だから、他の産地で同じような紙をつくっても『大礼』とは名付けられないらしいよ。」
「紙の種類名だと思っていました。ブランド名だったのですね。『大礼』『本大礼』『レーヨン大礼』は何が違うのですか?」
「楮100%の『花』を使っているのが『本大礼』、少しでも楮が使われているのが『大礼』、レーヨンを使っているのが『レーヨン大礼』なんだって。」

「大正~昭和生まれの『大礼紙』より以前からあるのが『奉書紙』なのですね。」
「そう。えっと、もともと『杉原紙』っていうのがあって」
「杉原紙?」
「平安時代に兵庫県の杉原谷っていう地区で漉かれ始めたと言われている紙。元は楮を主原料に米粉を混ぜて漉かれていた少し厚手の白い紙で、風合いが鎌倉時代以降の武家社会に受けて空前のブームになって、加賀とか岩見とか、他の和紙産地でも真似たものが漉かれるようになった。加賀で漉かれたものには『強杉原』なんて別名もあったみたいだよ。普通の杉原紙より厚くて強い紙だからって。」
「あとからつくる方が改良できて有利ですものね。」
「で、その強杉原がさらに洗練されて地合いの良い高品質な紙になったのが『加賀奉書』だといわれている。」
「奉書紙は石川県生まれなのですね。」
「いや、実はね・・・1684年に発行された書物に『加賀奉書と越前鳥の子が紙の中では一番だ』って書かれてて、そのころ既に加賀奉書が流通していて高い評価を得ていたのは確かなんだけど、それよりずっと前の1300年代半ばごろには、越前のお殿様が命じて漉かせた紙の品質が良くてこの紙のことを奉書と呼ぶようにと仰った、っていう由緒書、つまり家の歴史書が紙漉きのお家に残っているっていう話もあって、奉書紙は越前、つまり、福井県生まれだっていうことになっている。そもそも『奉書紙』って、紙の種類名じゃなくて、『偉い人の側仕えの役人さんがさらにその下の人に偉い人の命令を伝えるために使った紙』の意味だから、そこからすると公文書用に使われている品質の良い紙なら全部奉書紙、ってことになっちゃいそうだけど。」
「奉書紙も福井県生まれなのですね。でも、加賀奉書の方が評価が高かった?」
「いや、1713年に出版された別の本には『奉書は越前産が最高だ』って書かれているよ。どっちが上とかじゃなくて、どっちも高品質だったってことなんじゃないかな?」

「品質の問題で言えば、コマキさん、『生漉き』って聞いたことある?」
「『きずき』ですか?」
「さっき杉原紙の話をしたときに、米粉を入れるって言ったでしょ?紙を白くしたり滑らかにしたりする効果を狙ってのことなんだけど、そういう米粉とか白土とかの紙薬を混ぜないで原料とネリだけで漉いた紙のことを『生漉き』あるいは『生漉き紙』って言うんだ。越前奉書だと、代々紙漉きを継承している匠のお家が、上質の楮とネリだけを使って丁寧な工法を守って漉いた奉書だけを『生漉奉書』って呼んで、他の越前奉書とは区別しているんだって。」
「正しく伝統工芸品という感じですね。」
「木版画とか書画用紙に使われるそうだよ。現代で奉書が奉書、つまり公文書用紙として使われることはないけどね。」
「元号が代わったときに国民へのお披露目の墨書に使われた紙は奉書紙だという話でしたよ。」
「そう言えばそんな話あったねえ。あれはまあ、本来の意味の奉書に近い使われ方かな?」
「その他だと、便箋とか封筒とかでしょうか?」
「印刷されて襖紙に使われたりもするそうだよ。あと・・・」
「あと?」
「奉書焼き・・・お腹、空いたねえ。」
「・・・もうすぐお昼休みですから、もう少し我慢して下さい。」

※文中、敬称略