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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行89 市況品って?

【初めてこの項目をご覧になる方へ】
 この【紙のソムリエ】は、主に印刷会社の新入社員・若手社員の皆様に、気軽な読み物を通して、規格や用語など紙に関する基礎知識をお伝えすることを目的として、華陽紙業にて編集しております。
 紙の勉強中のシートくんと教育係のロール先輩、後輩のコマキさん、総務のパレット先輩などの紙に関するやり取りを気軽にお楽しみ頂ければ幸いでございます。

 というわけで、ある日の午後。コマキさんがシートくんに質問します。
「シート先輩、一つ質問宜しいですか?」
「どうしたの?」
「紙の仕入先さんとの話題で『市況品』という言葉が出てきますよね。『市況』は以前に『モノの価格、推移』のことだと教えて頂いたと思うのですが、『市況品』となると何を指すのか分からなくて。何か特定の品種を指しているのだな、とは思うのですが。」
「あ、じゃあ、『市況三品種』っていう言い方も聞いたことないかな?それも含めて説明しようか。」

「まず『市況』。これは文字通り、『市場の状況』だよね。市場での商品の取引状況を指す言葉だから、さっきコマキさんが言った通り、実際には商品の価格やその推移を指すことが多い。」
「『最近、市況はどう?』『上昇傾向ですね』といった感じですね。」
「そうだね。じゃあ、市況を上下させる要因になるものは何だったか覚えてる?」
「新聞の読み方の時に教えて頂いたことですね。

需給 需要>供給 なら商品価格は上昇、反対なら下落。
原燃料価格 紙の場合、原料であるパルプ、古紙、カセイソーダなどの薬品、機械を動かすためのC重油などの価格の上下が製造コストに影響する。
輸送費 輸送のための人件費や燃料費といったものだけでなく、輸送効率や環境対策費用などの二次的な要因もコストとして反映される。

などが主なところだったと思います。」
「うん。で、このコスト要因は、生産量が大きい品種に、より影響を与えやすい。当たり前の話だけど、生産量が大きければ必要な原燃料の量も輸送費も大きいわけで、コスト金額も大きくなるよね。」
「例えば、コストがキロ1円上昇したとすると、生産量100キロの商品なら100円のコスト増だけど、100トンなら10万円のコスト増になる、ということですね。」
「逆にコスト減の場合も、生産量の大きい商品の方がその影響を受けやすい。コスト金額の上下幅が大きければ商品価格の見直しが必要になってくるから、商品価格自体も上下しやすいよね。こんな風に、生産量が比較的大きくて、市況の影響を受けやすい商品のことを『市況品』って呼んでるんだ。」

「となると、『市況三品種』が何かは想像がつくかな?ちなみに、印刷情報用紙の中の三つだよ。」
「生産量が大きいもの、というのは、使う機会が多いもの、と考えれば良いですよね。本などの出版用の書籍用紙ですか?」
「あ、ごめん。出版は市況品種には入らない。生産量の多いものは出版社のオーダーメード品も多くて、価格も個別取り決めだから。もっと市場に出回っているもので、どこでも使うような商品だと?」
「ああ。じゃあ、『上質』『A2』『A3』ですね。

上質紙 白くて滑らか、塗工がされておらず、汎用性の高い紙。冊子の本文用紙、表紙、リーフレット、取説、チラシなど、様々な場面で使用される。
A2コート紙 表面に塗工が施され、印刷がきれいに仕上がるように加工された紙。カタログや高級品のチラシなど。
A3コート紙 A2コート紙より塗工量は少ないが、同じく塗工によって印刷効果を上げている紙。チラシなどに多用される。

この3つが、印刷情報用紙の中でも使用機会が多い品種だと思います。」
「微塗工紙を加えて『市況四品種』という言い方をすることもあるね。紙の需要は減少しているけど、それでもこの品種は生産量が多くて、コストの増減の影響を受けやすい。逆に、この品種に属するどれかの価格変動が他のものに連鎖して、紙の市況全体を左右することもあるくらいだよ。」

「紙の需要はどんどん減少していますよね。それでもこの『市況品』が紙の価格リーダーであり続けるんでしょうか。」
「今後は変わるかもしれないね。例えば日本製紙連合会が発表している紙の内需統計だと、2014年までは印刷情報用紙が段ボール原紙を上回っているけど、2015年にほぼ同じになって、2016年以降は段ボール原紙が印刷情報用紙を上回る状況が続いている。それに、印刷情報用途の紙(グラフィック用紙)と包装産業用途の紙(パッケージング用紙)だと、2011年にはほぼ差がなかったのが、どんどんパッケージング用紙の方が多くなっていって、2019年の試算の段階だと300万トン近くの差がつくっていう見通しになっているんだ。米中貿易摩擦とか環境規制とか、段ボール原紙を取り巻く環境も安定しているとは言い難いけど、製紙メーカーでは紙用だったのを段ボール原紙用に改造されている抄紙機もあるし、今後は紙の1番の機能は『伝える』じゃなくて『包む』になるんじゃないかって見ている人もいる。」
「『市況品』=『段ボール原紙』になる日が来るかもしれないんですね。」
「もうそうなってる側面もあるかもしれないけどね。」
 紙業界にも変革の時代が来ているってことかな、と締めくくったシートくんに
「カッコつけてるとこ悪いんだけどね」
とロール先輩が声を掛けます。
「この見積書、シートくんが作ったんだよね?」
「はい、そうですが・・・」
「金額、ちゃんと見直した?」
「・・・キロ単価と枚単価間違えた!」
 慌ててお客様に電話をかけ始めるシートくんに、溜息をつくロール先輩。
「・・・シートくんの変革の時代は遠そうだね・・・・・・」
 ロール先輩の呟きに苦笑いを返すしかないコマキさんでした。