KAYO NEWS
華陽ニュース
不定期配信 源氏物語の紙7
「ニなき紙」と称えられる紙に対し、違う状態の紙で登場人物のキャラクターを表現しているのが『末摘花』『蓬生』の巻です。紙の持ち主はどちらも、亡くなった常陸の親王の姫君。父親王にとても可愛がられて育ったのですが親を亡くしてからは心細く暮らしている、と耳にした源氏は、常陸宮邸に出入りしている女房に仲介を頼みますが・・・
第6帖「末摘花」
この姫君、とにかく内気で引っ込み思案。源氏と頭中将の二人が競って送ってくる手紙にも一向に返事をしません。しびれを切らした源氏が会いに行っても恥ずかしさから声も出せず、見かねた侍女が代わりに返事をする始末。寂しく暮らす可愛い人との打ち解けた風情のある語らい、を期待していた源氏は当てが外れて、早々に家に帰ると、すぐに送るべき後朝の手紙も送らずだらだらと過ごし、仕事が終わった夕方になってやっと「今日は雨が降っているので行けません」という手紙を送ります。
恥ずかしいし何て書いていいか分からないし、と返事を出しかねていた姫君も、女房達に促されてやっと返事を書くのですが、その返事に使う紙が「紫の紙の、年経にければ灰おくれ古めいたる」、元は紫色の高級紙なのに、古くなって白っぽく色あせてしまっているものに、しっかりした文字で、上下をきっちり揃えてお書きになります。ところが源氏は「見るかひなううち置きたまふ」、見るかいもないと放置するのでした。
姫君の貧窮ぶりなどをはっきり見てしまった源氏が「これは見捨てられない」と生活の面倒を見るようになってからも、姫君は手紙に「みちのくに紙の厚肥えたるに、匂ひばかりは深うしめたまへり」、厚ぼったい陸奥国紙に香だけは深くたきしめたものを選択するなど、書かれた歌同様にどこかちぐはぐなセンスを発揮して源氏の困惑と笑いを誘います。源氏が返歌に用いるのは「白き紙」、白い紙に無造作に書いた様子にも趣がある、と表現されており、元が良いものでも使いどころや使い方を見極めて生かせるかどうかは本人次第、という筆者のメッセージを、紙の選択を通して伝えているようです。
※華陽紙業にて紙に関する記述がある部分を抽出し、崩して訳した文章となっております。興味がおありの方は、是非、原文でお楽しみ下さい。