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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話30 製紙と水

「おはよう、コマキさん。なんだか楽しそうだね?」
「おはようございます、シート先輩。天気良いですよね。川沿いの緑が水面に映えて、きれいだな、と思ったら、うれしくなってしまいました。」
「緑と水か。どちらも紙に縁の深いものだね。」
「製紙にはたくさん水を使いますからね。」
「うーん、確かにそうなんだけど、その言い方だと誤解されるよ。製紙にはきれいな水が大量に必要だけど、だからこそ、取水でも排水でも自然環境への負担を軽くするように、いろいろ努力しているんだよ。」

「まず取水。製紙各社は河川や地下水などから用水を調達していることが多いんだけど、

・操業の改善
・使った水を回収して再利用

で、なるべく新しく使う水を削減しようとしている。」
「日本製紙連合会のサイトに、新水利用原単位の推移が掲載されていますね。」
「紙や板紙を1トンつくるのに、どれだけの新しい水を使っているか、の推移だね。これによると、2000年の新水利用原単位は1982年比で3割ほど減少している。その後はほぼ横ばいが続いているけど、たとえば王子ホールディングスは『水消費原単位の削減』を目標に掲げていて、継続的に管理を実施していて、2020年度の取水量は2018年度比で4.6%削減したと発表しているよ。」
「王子ホールディングスは水リスクの評価についても明らかにしていますね。」
「そうだね。簡単に言うと、

水リスクの評価 世界資源研究所が発表した、地域ごとの水リスクの状況を示した世界地図・情報をもとに、既存事業の、水ストレス度と全製造事業所の水資源投入量の関係を把握。
水ストレス度 水需給の逼迫度合い。値が高いほど、水不足の深刻度が高いといえる。
王子HDの対応 2020年度の既存事業の全製造事業所のうち、取水量の99%を水ストレス度40%までの水リスクの低い地域で取水。
水ストレス度40%以上の水リスクの高い地域にはパルプ製造事業はなく、加工製造事業所が置かれているが、取水量は全体の1%未満。

となっている。」
「日本製紙さんもサイトで水に関する情報を公開されていますね。それによれば、2020年度の水使用量は2018年度比2.4%削減となっています。」

「王子HDさんのデータをみると、水の取水量と消費量が別に記載されていますね。この取水量と消費量というのは何が違うのですか?」
「取水量から排水量を引いたものを水の消費量とされているみたいだね。この『排水』がもう一つのポイント。50年位前までは製紙工場からの排水が原因でヘドロなどの公害問題が起きたりしていた。ほかの産業でも工場排水が問題になる例が続いたことで、1970年に水質汚濁防止法が制定されたり、自治体でも厳しい規制ができて、今では工場排水は厳格に管理されている。様々な方法で排水中の汚濁物質を取り除いて、きれいな状態で自然環境に返すように変わっているんだ。製紙業の汚濁物質は有機物やパルプなんかが中心で、他の産業のように健康被害をもたらす危険は少ないんだけど、製紙各社は排水を重要な課題と捉えて様々な方法を開発、実践してきているんだ。」
「汚濁物質はどのような方法で除去されるのですか?」
「例えば

生物処理 水に溶解しそのままでは分離できない有機物を微生物に食べさせ、その微生物を排水から分離することで有機物を取り除く方法。
物理処理 プラスのイオンを持つ無機凝集剤や粘性のある高分子凝集剤などを排水に溶かして、汚濁物質を大きな塊にして排水から分離する方法。排水中のパルプなどを取り除くのに使われる。

とか。ほかにも活性炭や分離膜を使ったりとかね。取り除いた汚濁物質も、乾燥して燃料に使ったり、焼却灰をセメントの原料にしたりして、有効活用されているんだよ。」

「製紙は循環型産業だ、というのは水の面でも言えることなんだよ。」
「製紙は環境に悪い、という誤解は、50年前の情報がアップデートされていない部分があるのかもしれませんね。」
「そうかもしれないね。いろいろ実行しているのに、どうもアピール下手というか・・・」
「身近にいる寡黙な先輩が、実はいろいろフォローしてくれている優しい先輩だった、という感じでしょうか。」
「え?それって僕のこと?」
「シート先輩は寡黙じゃないですよね・・・」