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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話50 紙になる木
「あけましておめでとうございます、コマキさん。今年もよろしくね。」
「あけましておめでとうございます、シート先輩。それ、どうされたのですか?可愛いですね」
「良いでしょう、ミニ門松。姪の手作りなんだよ。僕だけで楽しむのももったいないから持ってきた。」
「自慢したかったのですね・・・ちゃんと松、竹、梅が揃っていますね。」
「縁起良いよね。」
「松と竹には普段からお世話になっていますしね。」
「え?」
「え?どちらもチップの原料樹種ですよね?」
「あ、『米松』のこと?」
「おさらいね。紙の原料になる樹木には『広葉樹』と『針葉樹』がある。」
「繊維は短いけど地合いや平滑性、不透明度などの点で高い品質が得られる『広葉樹』が印刷用紙、繊維が長くて丈夫な『針葉樹』は包装用紙や家庭紙などの原料として使われるのですよね。」
「そう。余談だけど、樹木から紙をつくるようになったのは、紙の長い歴史からするとつい最近のことなんだよ。」
「子どものころから、紙は木からつくるもの、と思っていましたが・・・」
「『紙は木からつくるもの』というのが現在の製法の主流じゃない、という話は後にするとして、レオミュールという学者さんが植物繊維から紙をつくれるんじゃないかっていう趣旨の論文を提出したのが1719年、レオミュールの考え方を基にシェファーという学者さんが木材やわらなどから紙をつくる実験をしたのが1765年ごろ。」
「レオミュールからシェファーまで、結構時間が経っていますね。」
「まだまだだよ。2人の説を受け継いでドイツのケラーという人が手動式の機械パルプ製造機をつくったのは1840年。」
「レオミュールからは120年、シェファーからでも80年近く経って、やっと実用化されたのですね。」
「このときはまだ、強度の問題でパルプ100%の紙はつくれなかったそうだけどね。あと、機械パルプ方式だと繊維がすりつぶされて短くなってしまうから、繊維が長くて丈夫な針葉樹しか原料には使えなかった。化学パルプ法が発明されて、洗練されて、広葉樹でも原料に使えるようになったのは1880年ごろ以降なんだよ。」
「針葉樹だとしても、木を紙の原料にするようになってから、まだ200年も経っていないということなのですね。でも、化学パルプ法が生み出されて、漂白法なども改良されて、どんな木からでも紙がつくれるようになった。」
「うーん、そこがまた、いろいろでね。理屈としてはどんな木の繊維でも紙の原料にはなる。ただ、木にも種類があるから、繊維が多く取れるとか、パルプにしやすいとか、紙の原料に向いている木があるんだよ。例えば、日本に多くあるスギはパルプ化しにくくて製紙原料には向いていないと言われている。」
「向き不向きがあるのですね。」
「あと、他の産業との関係とかね。コマキさん、『カスケード利用』って聞いたことある?」
「『カスケード利用』ですか?」
「さっき、『紙は木からつくるもの』というのが現在の製法の主流じゃない、って言ったけど、現在の日本のパルプの60%以上、3分の2くらいは古紙パルプなんだよ。」
「『紙は紙からつくるもの』なのですね。」
「そう。で、残りの3分の1くらいが木材由来なんだけど、その木材も、建築とか木工製品などの産業が使った後で出た残材とか、他の産業では使えない低質材、間伐材とかが多くの割合を占めている。そういう風に、他の産業が使って残ったものを別の産業で使って、捨てる部分を極力減らしていく使い方を『カスケード利用』っていうんだけどね。」
「紙パルプ産業で使用できる樹種も、他の産業との関係で絞られてくるということですね。」
「紙パルプのチップとして代表的な樹種は、広葉樹だとユーカリやアカシア、針葉樹だとダグラスファーやラジアータパイン。このダグラスファーが最初に言ってた『米松』。国産の『松』とは属が違う樹木なんだよ。」
「まあ、松と米松は同じマツ科だし、竹パルプを使った紙もある。梅も、梅炭を配合した紙があるから、このミニ門松は、紙を体現したとも言えるかもね。」
「いえ、体現は言い過ぎかと・・・」
「は!ひょっとしてそこまで考えて僕にこれを・・・うちの姪、天才・・・?」
「・・・・・・」
※文中、敬称略