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【紙のソムリエ】番外編 シート先輩とコマキさんの紙に関する四方山話40 『溶ける』の違い

「おはようございます、シート先輩・・・目をどうかされたのですか?」
「おはよう、コマキさん。なんか朝からごろごろしてて・・・鼻も何だかむずむずするんだよね。」
「ティッシュ有りますよ、良かったら。」
「有難う。・・・ティッシュを見ると思い出すことがあるんだけど。」
「?」
「姪がまだ小さい時に、トイレを詰まらせたことがあって。いたずらなのか遊びなのか、トイレットペーパーじゃなくてティッシュペーパーを流しちゃったらしいんだよね。姉はパニックになるし、姪は号泣するし、あの時は大変だったなあ・・・」
「トイレットペーパーは溶けやすくつくられていますけど、ティッシュペーパーは逆に溶けにくくつくられていますからね。」
「水分を吸収した時に簡単に破れたら困る用途で使うものだからね。ただ、コマキさん、その『溶ける』という言葉、本当は違うって知ってる?」

「コマキさん、『水素結合』の話は覚えている?」
「紙の原料である繊維同士を結合させている力、ですね。」
「そうだね。もう少し詳しく言うと

セルロース 木材を構成する最小単位の植物繊維。グルコースと呼ばれる糖類が数千個つながった構造となっており、水酸基と呼ばれる部分を持っている。
紙における水素結合 抄紙過程で水中に分散されたセルロースは水酸基の部分で水素結合により水分子と結びつき、その水分子同士の結びつきを通して遠く他のセルロース分子と結びついている。これが網の上にすくわれて乾燥する過程で、水分子を失い、セルロース同士が接近することで、セルロースの水酸基同士で水素結合が起き、紙という形になる。

ということ。紙が水で破れたり、溶けたようになるのは、セルロース同士の水素結合が水分子を得ることで離れてしまうからだ。」
「ぎゅっと手をつないでいたのに、間に他の誰かが入ってくることで、手を放してしまう、というイメージでしょうか。」
「そんな感じ・・・なのかな?とにかく、水を加えることでセルロース同士の結合は解け、ばらばらになってしまうけど、セルロースという形がなくなるわけじゃない。厳密に『紙が水に溶ける』というわけじゃないよっていうのはそういうこと。」

「紙が水に『溶けやすい』『溶けにくい』というのは、繊維同士の結びつきが弱いか強いかということなのですね。」
「例えば、水に溶けにくいティッシュペーパーには針葉樹パルプのような長繊維のパルプが原料に使われている。繊維が長いから結合する面積が大きくなって、結びつきは強くなるよね。それから、紙力増強剤のような薬品で水素結合をつくる手助けをして、結びつきを強くするという方法もある。ほかにも紙の強さを決めるいろいろな方法があって、水に『溶けやすい』紙、『溶けにくい』紙をつくっているんだよ。」
「繊維同士の結びつきではなく、繊維自体を溶かすことはできるのですか?」
「セルロースの水酸基を化学的な処理をすることで別のものに置き換えると、水素結合できなくなって分子の形を保っていられなくなる、本当の意味で溶けると言っていい状態になるよ。製紙メーカーさんでも増粘剤として販売されているカルボキシメチルセルロースがそのひとつだね。」

「ティッシュをトイレに流してはいけません、というのは、そういう根拠があってということなのですね。」
「見ただけ、触っただけじゃあ、そこまで分からないものね。どんな製品も様々な技術の結晶っていうことかな。」
「そうですね。・・・ところでシート先輩、目がごろごろする、鼻がむずむずすると仰っていましたが、それって花・・・」
「言わないで!違う、これはただの風邪って、必死に自分に言い聞かせてるんだから!」
「・・・見ただけで分からないのはこちらも同じですね・・・・・・」

※文中、敬称略