鉄鋼3割、石油・化学2割 世界需要が急減 廃棄や人員削減加速も
製造業の国内生産設備に過剰感が強まっている。世界景気後退で需要が急減しているためで、鉄鋼は1−3月に設備の3割が余剰になる見通し。石油製品と石油化学原料は能力が約2割余り、乗用車もピークに比べ生産が2割以上落ちている。製造業は1990年代に「設備・雇用・負債」の3つの過剰を解消して競争力を高めたが、再び設備過剰に陥った。需要減が続けば設備廃棄や正社員削減が本格化する可能性が高い。
主要業種の最新の生産実績・計画を、フル生産時の能力と比べると、設備の過剰感は日増しに強まっている。
経済産業省が鉄鋼各社から聞き取った1−3月の粗鋼生産計画は2,110万トンで、フル生産だった前年同期に比べ32%減る見込み。四半期ベースでは約40年ぶりの低水準で、このペースが今年いっぱい続けば、国内に約30基ある高炉のうち10基分の能力が過剰になる。JFEスチールは今月、西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)の高炉一基を休止した。
石油元売各社がガソリンなど石油製品を生産するための原油処理量は、2008年に能力より20%少ない日量平均395万バレル程度に減ったもよう。稼働率は7年ぶりの低水準で、製油所に換算すると5カ所程度が余剰だ。
石化製品の主要原料であるエチレンを生産するプラントの平均稼働率は昨年11月に約80%となり、96年の調査開始以来最低水準になった。このまま2割の減産が続けば、プラント3基分にあたる年150万トンの能力が不要になる。
素材の設備過剰感が強まっているのは、自動車を中心に最終製品の需要が急減しているため。昨年11月の乗用車の国内生産は、ピークだった昨年3月の95万台に比べ23%少ない73万台まで落ち込んだ。自動車各社は今年に入り減産を強化しており、工場によっては稼働率が採算ラインといわれる70%を割り込む公算が大きい。
鉄鋼業界では80年代の円高不況や90年代のバブル崩壊を受け、設備能力が需要を2割前後上回る状態が続き、新日本製鉄が釜石製鉄所(岩手県)など3拠点で高炉を休止した。今回は3割程度の能力が余っており、瞬間的には90年代より過剰感が強い。石化業界でも90年代後半にエチレン生産能力が1割余り、01年にかけ昭和電工と三菱化学がプラント各1基を休止・廃棄した。
製造業各社は設備過剰解消後、02年からの景気拡大局面で生産能力を拡大した。しかし世界景気後退で状況は一変。各社は今年半ば以降の需要回復に期待をかけるが、分野によっては設備廃棄の動きが出始めている。
新日本石油と新日鉱ホールディングスは経営統合を機に、両社合計の約2割にあたる日量40万バレル分の原油処理能力を削減する方針。三菱化学も設備統廃合の検討を始めた。設備稼働率の低下が続けば業績への打撃も大きく、今後、生産拠点閉鎖や正社員削減の動きが広がる可能性もある。 |