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全ての業界がエコ対策を念頭に仕事を進めるなか、
出版界ではどんな対策が模索されているのでしょうか。
2010年1月27日の岐阜新聞朝刊より
「出版界のエコ対策」と題された記事をご紹介いたします。
低炭素社会の実現が叫ばれる中、大量の紙資源を使う出版界は地球環境とどう向き合おうとしているのか。読者参加のカーボンオフセット(二酸化炭素排出の相殺)や用紙の共通化など、さまざまな取り組みを通してエコ時代の本作りを考えた。
昨年秋、一風変わった文庫本が刊行された。レーベルは「ウッディ文庫」。その名の通り、装丁には0.1ミリほどにスライスされた杉などの間伐材をそのまま使用、1冊ずつ木目が異なる表紙からは、ほのかな木の香りも漂う。
「紙が木からできていることを、あらためて考えてもらいたかった」と話す版元の一穂社(東京)社長の古谷先男さんは、業界全体で約4割の書籍が売れ残り返品される一方で、読者が手に入れられない「品切れ絶版」状態の本が多いことに疑問を感じてきたという。
同文庫シリーズでは、著作権の切れた名著を中心に復刊する予定で、「少部数で品切れを出さない文庫にしたい」と古谷さん。間伐材の有効利用と需給バランスを考えた刊行スタイルが、エコの時代に共感を得られるのではと期待する。
雑誌を買うことで環境へ寄与できたら、どうだろう。「世界初!カーボンオフセットマガジン!」をうたう環境雑誌「ソトコト」(木楽社)が3年前から行う、二酸化炭素(CO2)排出権付き定期購読プログラムだ。
9600円の年間購読を申し込むと、ソトコトが1人当たり365キログラムのCO2排出権を購入。買い取った排出権は、京都議定書で決めた日本の削減目標「マイナス6%」達成に寄与するという仕組みだ。小黒一三編集長は「定期購読の伸びは予想外に高い」と話す。
同誌は1999年の創刊以来、オシャレな誌面で、健康と環境を愛する生活様式「ロハス」などを紹介してきた。「うちの読者にとって排出権はエコバッグを持つのと同じひとつのファッション。知的なゲームに参加するような感覚もしれない」。肩の力の抜けたエコライフの提案という切り口は“ブランド”として支持を広げている。
相次ぐ「エコシフト」の背景にあるのは、業界全体を取り巻く厳しい経営環境だ。大手出版社で始まった用紙の共通化もその延長線上にある。
一昨年から昨年にかけて、「ジャンプ」(集英社)「マガジン」(講談社)「サンデー」(小学館)の人気週間少年漫画3誌が、それまで雑誌ごとに異なっていた紙の色と厚さを統一。ライバル関係にある3誌が手を結んだ直接のきっかけは、原燃料高騰による紙の値上げ圧力だった。
「少年週刊誌の定価を上げるわけにはいかない。日本の漫画文化を守るためにも、廉価で紙を提供し続けてもらう方法を考える必要があった」と小学館の広岡克己常務。統一によって、製紙や印刷などの各段階でコストダウンが図られ、紙の搬送、在庫管理面でもメリットが大きいという。
講談社の戸田誠資材部長は「今までは『うちは他誌より濃い色に』など編集部のこだわりが強かったが、今はそういう状況ではない。原価を抑えるため、削れるところは少しでも削る必要がある」。同社では女性誌でもグラビア用紙の種類を絞るなどの効率化に努め、結果として環境負荷の軽減に結びついている。
このほか、原料調達から廃棄までのCO2排出量を“見える化”する表示として注目される「カーボンフットプリント」についても、業界内で検討が始まった。国内で実施されているのは食品や洗剤などの一部で、旗振り役の国も消費者に身近な商品として、雑誌での実施に期待を寄せる。
不況をきっかけに広がりを見せるエコ対策。本の世界でも「環境への優しさ」が読者の選択肢になる時代が来るのかもしれない。 |
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