【紙のソムリエ】新入社員シートくんとロール先輩の紙修行 ⑭ 選挙が得意な紙?~合成紙~
「うふふふふ・・・」
営業から戻ったシートくん、自席でにこにこ頬を緩めながら、作業指示書を眺めています。
『聞いて欲しいんだな・・・』内心一つ溜息を吐きながら、「どうしたの、シートくん、気味悪い笑い方して。」と、ロール先輩、突っ込みます。
「聞いて下さい、ロール先輩」待ってましたと話し出すシートくん。
「今日お客様にポスターのご注文を頂いたんです。『屋外に貼るから丈夫な紙でね。』って言われたんで、すぐユポを提案したら・・・」
「提案したら?」
「『やるね、シートくん。頼りになるね。』って・・・!」
うふうふ笑い続けるシートくんに、呆れながらも、ロール先輩、笑みを浮かべます。
「すぐユポの名前が出るなんて、すごいじゃない、シートくん。」
「以前の勉強会で『屋外のポスターに向く』って教えて頂いたのが頭に残ってたんです。ユポみたいな合成紙って、あまり一般のお客様は御存じないみたいで、余計感心して頂けたみたいで。」
「あまり御存じない、か。でもみんな普通に使ってるのにね。」
「え?」
「選挙、行ってるでしょ?シートくん」
「え?選挙?なんでここで選挙の話が出てくるんですか?」
「・・・そっちは覚えてないんだ・・・・・・」
「まず、シートくん、一般紙と合成紙の違いは分かる?」「製造法も違いますけど、まずは原料ですよね。」
一般紙 | 木材パルプが主原料 |
合成紙 | 合成樹脂が主原料 |
「そう。石油から作られた合成樹脂の良いところを生かして、紙らしく成形してできるのがもともとの合成紙。」
「紙らしくって?」
「白さとか、不透明性、印刷適性、筆記性なんかかな。この『いかに”紙らしく”を実現するか』っていうのが、各メーカーの腕の見せ所で、製造法もいくつかあるわけ。更に言えば、一般の紙とフィルムを組み合わせた、元々の『合成紙』とは違った作り方をしているものも『合成紙』として扱われてたりするから、合成紙の定義自体が随分広くなっている感じがするね。」
「そもそも、石油で出来てるのに紙か?って気もしますもんね。」
「紙自体の、日本工業規格の定義が、合成紙とか『繊維状無機材料』を配合した紙も、紙として認めてるからね。」
「それで先輩、普通の紙と比べて、合成紙ってどんなところが良いんですか?」「えっと・・・」
強み | ・強度が高い ・耐水性が高い ・均一性に優れている ・耐候性・耐薬品性・無塵性等が高い |
弱み | ・吸水性や浸透性が低く、印刷インキの乾燥が遅い ・耐熱性が低い 等 |
「要するに破れにくくて水にも強いし、屋外で使うにはぴったりだけど、印刷はしにくい?」
「元々はね。今は色々なタイプが開発されて、乾燥時間が短縮されてるのもあるから、それを選ぶこともできる。例えばユポでも・・・
- 油性オフセット印刷・UVオフセット印刷ともに適しており、紙に近い風合いや筆記性が付与されている。
- 一般インキが使用可能で、乾燥時間も大幅に短縮、光沢性・色の再現性に優れ、ポスターに最適なタイプ
- 「使いやすくて、両面印刷が可能」という要望を実現するために開発されたタイプ。専用インキを使用するが、乾燥時間は早く、美しい仕上がり・光沢感などで高級なイメージが得られる。
- 片面を高光沢に仕上げたもの。
- インクジェットプロッターで印刷できる
- 貼ってはがせる微吸着シート。オフセット用とインクジェット用があり。
- 静電気の力で吸着するタイプ。
(ユポコーポレーションのサイトより華陽紙業にて抜粋・編集)
なんて、使用されるシーンに合わせて、いろいろなタイプが開発されている。あとはコストとの兼ね合いかな?やっぱり色々な特性が付加されてるものは値段も上がるから。・・・だから、屋外に貼るポスターでも、結構、普通のコートやアートを使っているものもあるでしょ?」「そうか・・・・・・」
「でもね、屋外に貼るポスターで、絶対に雨とかに打たれても破れちゃいけないポスターもある。何だと思う?」
「えっと・・・・・・」
「選挙ポスター。候補者さんの顔が雨に濡れて破れたりしたら困るでしょ?だから、選挙があると合成紙の引合が増えるんだよね。」
「あ、じゃあ、さっき言ってた、選挙の時にみんなが使うものって・・・」
「それはまた別。選挙の時に使う紙って、他に無い?」
「えっと・・・選挙の通知の葉書とか、ちらしとか、公報とか・・・でもこの辺みんな普通の紙ですよね?あとは・・・・・・あ、そうか、思い出しました、投票用紙!」
「正解。合成紙って折り目がつきにくいから、折っても投票箱の中で開いちゃうんだよね。それが開票の時に都合が良いってことで、投票用紙には合成紙が使われているの。」
「面白いですね、合成紙。他にはどんな用途があるんですか?」
「屋外ポスター、垂れ幕、クリーンルーム用紙、ラベル・・・あと地図とか、ゴルフのスコアカードなんかも多いよ。」
「ゴルフって雨でもやりますもんね。」
「熱に弱いのを逆に利用して、袋を閉じるラベルとかね。」
「やっぱり代表的な商品はユポですか?」
「そうだね、あとオーパーとかピーチコート、ちょっと違うけどポエム-Sなんかも合成紙として扱われたりするね。」
二人が合成紙談義に花を咲かせているところへ
「お話し中ごめんね。ロールちゃん、この書類なんだけど・・・」
話に入ってきたのはパレットちゃん。
「あ・・・パレット先輩。」
未だにきちんと謝れていないシートくん、
「あの、先輩、先日はすみませんでした!」
勢いよく頭を下げます。
「やだなあ、もう怒ってないよ。」
「でも僕、失礼ばかりで・・・・・・」
頭が上げられないシートくんに、困り果てるパレットちゃん。見かねてロール先輩が口を挟みます。
「ほら、シートくん。合成紙の良いとこを見習わないと。」
「?」思わず顔を上げるシートくんに
「折れても簡単に戻るとこ。折れっぱなしじゃパレットちゃんも困るでしょ。」
「え、ロールちゃん、合成紙の良いとこって、まずそこじゃなくない?」
笑顔で指摘するパレットちゃんを見て、どうやら本当に怒ってないらしい、と胸をなでおろすシートくんなのでした。
(初掲載:2013年5月10日、加筆修正:2019年11月15日)