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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 ⑮ 水と油?~一般紙とインクジェット用紙~

「コート紙って、プリンターに通しても大丈夫ですか?」営業から戻ったシートくん、カバンを置くのもそこそこにロール先輩に質問をぶつけます。
「いや、えっと、どうしたの、シートくん?」少し面食らいながら、ロール先輩、シートくんに問いかけます。
「お客様が商品カタログの試作をしたいんだそうですけど、通るかどうか分からない企画なんで、まず自分のプリンターで刷ってみたいって仰ってるんです。で、少しでも見栄えを良くしたいんでコート紙を使いたいって。でも、普通のコート紙って、家庭用のプリンターに通しちゃダメだったような気がして、その場で返事しないで持ち帰ったんですけど。」
シートくんの言葉に納得がいったロール先輩、肯いて更に問いかけます。
「それで?お客様のプリンターってレーザープリンター?それともインクジェット?」
「あー、やっぱりそれ要りますよね・・・実は聞き忘れちゃって。」
「電話して聞いた方が良いよ。非塗工紙ならまだしも、塗工紙の場合、専用紙を使って頂くにしても、レーザープリンター用とインクジェット用じゃ、全然違うからね。」
「少しでも安く上げたいんで、専用紙じゃなくて、一般のコート紙を分けてもらえないかって仰ってるんです。でも、それはダメですよね?」
「うーん・・・水と油だからね・・・・・・」
「え?そこまで相性悪いってことですか?」
「いや、そうじゃなくて、印刷機の問題。」


「シートくん、一般的にコート紙が使用される印刷機はどんな印刷機だと思う?」
「オフセット印刷機です。」
「じゃあ、オフセット印刷機の特徴は?」
「えっと・・・あ、そうか、まさしく『水と油』ですね。湿し水と油性のインキの反発を利用して印刷する仕組みです。」
「水なし平版もあるけど、湿し水を使うタイプだとそうなるね。だとすると、紙に要求される品質は?」
「えっと・・・」
「色々あるよ。水を使うんだから、耐水性は重要。あとは適度に吸水性があることとか、寸法安定性が高いこととか・・・でも、単純に言っちゃうと、油性のインキと相性が良い事が必要だよね。」
「あ、そうか」
「普通、塗工紙の表面は、油性の印刷インキを吸収して、水は弾くように作られているの。」

「オフセット印刷ならそれで良いけど、インクジェットプリンターの場合はそれが裏目に出る。」
「どうしてですか?」
「インクジェットプリンターって、ノズルからインクが飛び出して、紙に吸収されることで印刷ができる仕組みでしょ?油性を使うとノズルが目詰まりする危険があるから、インクジェット用のインクは、特に家庭用だと水性が多い。」
「じゃあ、一般のコート紙だとインクを弾いちゃうってことですね。」
「そういうこと。非塗工紙は良いとして、塗工紙だと、印刷が上手くのらない可能性が高いんだよね。」
「だから、専用紙を使う、と。」
「専用紙のコート紙タイプの場合、ベースの紙の上にインクジェットインクを吸収できる受理層がコーティングされてるの。発色度合を高める効果も付与されているから、綺麗な仕上がりも期待できる。あ、でも、注意点が一つ。インクジェット用紙をレーザープリンターやコピー機に使っちゃだめだよ。」
「どうしてですか?」
「機械の方が壊れるから。レーザープリンターって熱でトナーを定着させるでしょ?その熱でインクジェット紙のコート層が溶けて、ドラムに張り付いたりする。ドラムごと交換になったりしたら、結構おおごとだよ?」
「・・・・・」

「え?あれ?じゃあ、普通の印刷用コート紙も、レーザープリンターには使っちゃダメってことですか?」
「それは大丈夫。コート紙って言っても、印刷用コート紙とインクジェット用コート紙は全く別物だからね。でも、まあ、問題が無いわけじゃない。」
「何ですか?」
「さっきも言ったけど、レーザープリンターは熱が発生するでしょ?その熱のせいで紙の中の水分が気化して水蒸気になる。体積も大きくなる。でも表面はコート層があるから、水蒸気の逃げ場がない。で、膨らんだ水蒸気がコート層を押し上げて、火ぶくれを起こしたみたいな状態になる、と。」
紙がぼこぼこになっちゃう危険性があるってことですね。」

「やっぱり一般のコート紙を使うのは諦めて頂いた方が良いでしょうか・・・」
「まあ、お勧めはしないけど。でも、ちゃんと御説明して、それでも使いたいって仰るなら、自己責任で試して頂いたら?」
「自己責任・・・」
「給紙しない!くらいのトラブルで済めば良いけど、ひどい時には、ドラムに紙が巻き付いちゃったり、ノズルに傷がついちゃったりして、機械自体が壊れることがあるからね。でも・・・」
「でも?」
「うちのレーザープリンター、専用紙もあるけど、普通のコート紙だって、ちゃんと印刷出来てるでしょ?それから、簡易校正機のインクジェット。専用紙を使う会社もあれば、普通のコート紙を使う会社もあるって聞いたことあるよ。まあ、家庭用のプリンターで同じことができるかどうかは分からないけどね。」

二人が話しているところに、肩をもみもみ通りがかったのはパレットちゃん。ロール先輩が声を掛けます。
「どうしたの、パレットちゃん、なんか疲れてるね。」
「今、会社で紙と印刷のマニュアルを作ろうとしてるでしょう?工場の人の手書きの原稿を打ち直してるんだけど、とにかく量が多くて・・・」
ふう、と息を吐きながら、それでも勉強になるよ、と、パレットちゃん、にっこり笑います。
「あ、じゃあ、シートくん、問題ね?お客様に校正を渡す時、気をつけなきゃいけないこと何でしょう?」
「・・・色が合わないこと?」
「正解です。簡単すぎた?」
パレットちゃんに苦笑して、ロール先輩が補足します。
「さっきも話してたんだけど、うちの簡易校正はインクジェット。どうしても本機とは色が違うからね。カラーマッチングはするけど、最後は職人さんの腕頼みのところがあるし。」
「でも最近はデジタル印刷機の使用も増えてるでしょう?」
「そうだね。デジタル印刷機なら紙も本番用を使えるし、基本、何枚刷っても品質が安定しているから、校正自体が必要なくなるしね。」
 ぽんぽんと弾む会話を聞きながら、あれ?ひょっとして総務のパレット先輩にも知識で負けてる?と思い当たり、秘かに赤面するシートくんなのでした。

(初掲載:2013年6月10日、加筆修正:2019年11月19日)

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