【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 49 初めてのテスト?~連量を覚える~
岐阜に『桜、満開』の報が訪れる頃、会社には新入社員がやって来ます。
「緊張していますね。」
後輩たちを微笑ましく見つめるシートくんに、「そう言えば」とロール先輩も思い出し笑いを浮かべます。
「ちょうどこんな時期に紙屋さんを訪問したことがあるんだけど、新入社員らしい人が頭を抱えてて、可愛いなと思ったことがあったよ。」
「頭を抱えているのが可愛い、ですか?」
「紙屋さんも新入社員が入るとまず研修をやるんだって。それで、座学が終わると試験があるんだけど、毎年必ず出る問題があって、それを覚えてくるのにみんな必死になるんだって話。丁度その日が試験の日だったらしくて、ぶつぶつ言ったり何度も書き取りしたりしてる姿が、一生懸命で初々しくて可愛かったなって。」
「毎年必ず出ると分かっているのに必死、ですか・・・そんなに難しい問題なんですか?」
「いや、それが、連量なんだよね。」
「連量?」
「まず、シートくん、後輩たちに『連量って何ですか?』って言われたら?」
「単位枚数当たりの重量、ですね。もっと分かりやすく言うと、ある寸法の紙を決められた枚数集めた時に重さ何キロになるか、かな。紙は1枚がとても薄くて軽いので、この『連量』を使って厚さを表したり、取引の単位に使ったりします。」
「正解、だけど、順番に説明するなら、まず『寸法』と『坪量』の説明して、その後『連量』の説明、が分かりやすいんじゃないかな。」
「ほとんどの新入社員さんも知ってる話だとは思うけど、紙は出来上がった当初は巨大なトイレットペーパーみたいなロール状になっている。それを印刷機に合わせて小さい巻取やシート状にカットして製品として出荷しているの。」
「シート状にカットしたものが『平判』。その寸法は規格として決められているんですよね。」
「そう。メーカーによって寸法がバラバラだったりすると、作る方も使う方も大変だから、日本工業規格(JIS)で寸法が決められている。」
「だから、新入社員さんには、主だった寸法は覚えてほしいという話になるんですね。」
四六判 | 788㎜X1091㎜ |
B判 | 765㎜X1085㎜ |
菊判 | 636㎜X939㎜ |
A判 | 625㎜X880㎜ |
ハトロン判 | 900㎜X1200㎜ |
「次が『坪量』。これは紙の重さのこと。」
「坪量=1㎡あたりの紙の重量、ですよね。『米坪』とも言う。」
「そうだね。で、紙の規格寸法が分かって、その紙の坪量が分かれば、『連量』も分かる。」
「まだですよ、先輩。『連』の説明をしないと。」
「あ、そうか。」
「『連』は紙の枚数を表す単位です。紙と板紙、つまり、薄い紙と厚い紙では『連』の表わす枚数が違ってくるので要注意です。」
紙の場合 | 1連(R)=1,000枚 |
板紙の場合 | 1連(BR)=100枚 |
「『連量』はある寸法の紙を、決められた枚数=1連分、集めた時に重さ何キログラムになるか。なので、例えば、四六判で64.0g/㎡の紙の連量の求め方は
四六判の面積=788㎜X1091㎜=0.859708㎡
⇩
坪量64.0g/㎡、即ち、1㎡当たりが64.0gということなので、この紙1枚の重さは
64.0X0.859708=55.021312g
⇩
この紙1,000枚の重さ=連量は
55.021312gX1,000=約55kg
ということになるわけですね。」
「さっきシートくんが言った通り、紙は薄くて軽いから、1枚何㎛、っていう本当の厚さよりもこの連量の方が、紙の厚さを表す単位として使われる。」
「1枚80㎛の厚さの紙、ではなくて、連量55kgの厚さの紙、という言い方をすることが多いわけですね。」
「そう。或いは、同じメーカーの同じ銘柄の紙、例えば、上質紙のプリンスであれば、連量55kgよりも連量70kgの方が厚いっていう風にね。ただ、この考え方には一つ落とし穴があるの。」
「寸法が変わると、同じ厚さの紙なのに連量が変わってしまうこと、ですね。同じプリンスの64.0g/㎡の紙が、四六判だと連量55kg、A判の場合は0.625X0.88X64.0X1,000で35kgになってしまう。四六判55kgとA判35kgの同じ紙が本当に同じ厚さかどうか、計算をするか覚えているかしないと即座には分からない。・・・ああ、なるほど。連量の問題で大変、というのはそういうことですか。」
「そういうこと。四六判55kgの紙と同じ厚さのA判の紙は?って聞かれて、一々計算していたら大変だから、紙屋さんの社員は入社したら、まず、上質紙やコート紙の連量表を暗記しなさいって言われるんだって。」
坪量(g/㎡) | 連量(kg) | |||
四六判 | B判 | 菊判 | A判 | |
52.3 | 45 | 43.5 | 31 | 28.5 |
64.0 | 55 | 53 | 38 | 35 |
81.4 | 70 | 67.5 | 48.5 | 44.5 |
104.7 | 90 | 87 | 62.5 | 57.5 |
127.9 | 110 | 106 | 76.5 | 70.5 |
153 | 135 | 130.5 | 93.5 | 86.5 |
209.3 | 180 | 173.5 | 125 | 115 |
「これはあくまで連量の対比表だから、実際にその規格の製品が存在するかどうかは銘柄によって違うんだけどね。ただ、これを覚えておけば他の銘柄でも応用が利くからってことで、完全に暗記するまで再テストになるらしくて、新入社員さんたち、必死だったなって。」
「そういう、新入社員の時に覚えたことというのは忘れませんよね。」
「鉄は熱いうちに打て、かな。最初に良い習慣が付けばずっと役に立つから、新入社員さんには頑張ってほしいし、私たち先輩も応援しないとね。」
「はい。」
穏やかに頷くのに、ロール先輩、微笑みかけます。
「そう言えばシートくんには初めての後輩になるんだっけ?」
「はい。僕も去年、ロール先輩やパレット先輩、シート先輩にいろいろ教えて頂いたので、今度は僕が少しでも力になれれば、と思います。」
「シート先輩、か・・・」
昨年の4月を思い出したロール先輩、遠い目で当時を思い返します。
「そう言えば、シートくんたちの世代の教育係はもう一人のシートくんだったっけ・・・あの時は大変だったんだよね・・・初めての教育係で、シートくん、舞い上がっちゃって、慌ててて、人の話聞かなくて・・・・・・」
回想中の二人のもとに、「どこですか、ロール先輩、僕今年も先生になっちゃったんですけど!」と騒ぐ声が遠く響いてきます。
「・・・」
かわいた笑いを浮かべるロール先輩を気の毒そうに見遣りながら、「僕でお役に立てることなら何でも手伝いますよ」とせめてもの励ましを口にする後輩シートくんなのでした。
(初掲載:2016年4月10日、加筆修正:2019年12月9日)