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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 27 紙の作り方は一般常識?~基礎知識復習②~

「ロール先輩、さっきの話の続きなんですけど!」
終業時間を少しオーバーした会議が終わるや否や、事務室に駆け込んできたシートくん、帰り支度を始めていたロール先輩に飛びつかんばかりに話しかけます。
「あのね、シートくん、私、今日ちょっと用があって・・・」
「さっき紙の原料については教えて頂きましたけど!紙の作り方にも触れなきゃだめですよね!?」
「・・・人の話、聞いてないよね・・・・・・」
溜息を一つ吐いて、ロール先輩、椅子に座り直します。
「そうだね。紙の作り方か・・・目なりとか紙の種類とかにも絡んでくる話だし、さらっとくらいは触れておいた方が良いかな。」
「その、さらっと、ってどの程度ですか!?」
「シートくん自身は、どの程度説明したいなと思ってるの?」
「一般常識くらいで良いかなって。で、目なりとか、地合いとかに関わる部分は少し詳しく、と思ったんですけど。」
「紙の作り方が一般常識かどうかはともかくとして・・・うん、でも、それで良いんじゃないかな。一度その方向でまとめてみたら・・・」
「今から、先輩に話しながらまとめるんで、聞いてもらえますか?!」
「・・・・・・」

「先輩は紙漉きって一般常識ではないんじゃ?って仰いますけど、僕、大抵の人は紙漉きの光景って見たことあるんじゃないかと思うんですよね。特に岐阜に住んでると。」
「和紙のことかな?」
「そうです。岐阜は美濃和紙の産地ですし、ニュースとかでも目にするんじゃないかと。美濃に行けば紙漉き体験ができるところもありますしね。・・・洋紙の抄造も、基本的には一緒だよって方向で話そうと思って。」
「て言うと?」
「紙漉き体験だと、原料の入っている水槽の中に四角いざるみたいな漉き舟を沈めて、網の上に紙の繊維だけが残るように水を切って、絞って、乾かして、出来上がり、ですよね。洋紙の機械抄きも同じで、①原料を作って、②網で水を切って、③絞って、④乾かして、⑤仕上げして、出来上がり、だなって。つまり・・・」

調成工程 パルプを加工して紙の原料(紙料)にする工程。
①パルプをもみほぐして繊維どうしがより絡みやすくする(叩解)
②針葉樹と広葉樹など、特徴の違うパルプを混ぜ合わせて、強さや白さなど、求める品質にあったものにする(配合)
③更に求める品質に合うよう、染料や薬品類をパルプに加える(添加)
④パルプ中の、紙にするには不適切なものや作業で入ってしまった空気などを取り除く(除塵・脱気)
などの処理が行われる。
抄紙工程 ストックインレット 紙を抄くための、高速で流れるワイヤーの上に、原料を、正しい濃度、速度、角度で均一に吹き付ける工程。ムラや固まりなどを生じさせないために、紙料の濃度は0.5~1%程度の、できるだけ低いものに設定されている。
ワイヤーパート 吹き付けられた紙料が網の上で脱水されてシート状になる工程。まだこの時点では70~80%が水分。
プレスパート ある程度紙の形になったシートをフェルト(毛布)に挟んで脱水する工程。水分は50%程度になる。
ドライヤーパート 高温のロールに紙を押し当て、水分が10%以下になるよう、乾かす工程。
カレンダーパート ロールの間に紙を通して、平滑性や光沢を上げる工程。
リール 紙を巻き取る工程
ワインダー 紙を巻き直しながら所定の幅に断裁し、不良部分を取り除く工程

「ね?品質や生産性を上げるために色々複雑にはなっていますけど、要は、原料をすくい上げて、水を切って、絞って、乾かして、仕上げる、ってことですよね。」

「うん。大まかな説明はそれで良いと思うよ。ただ、それが紙の品質にどう関わってくるかになると、説明が少し細かくなるかな。」
「大まかな流れを理解してもらえれば、それも分かってもらいやすいと思うんです。例えば、紙には表裏がありますよね。これも・・・」

紙の表裏

意味 紙料がワイヤーパート上に吹き付けられた時、ワイヤーに接している面が紙の『裏』、接していない方が紙の『表』になる。
違い ワイヤー側から水分と一緒に繊維や填料が抜け落ちるため、一般に紙の裏側の方が粗くなる。現在では、表裏差を無くし高品質を保持するため、ワイヤーパートの構造を初め、様々な工夫がされている。

「・・・なんてことを知ってれば、お客様と会う時も、話の幅が広がると思うんですよね。」
「確かにね。まあ、最近は表裏差が大きすぎる紙って、わざとそう作ってるんでもない限り、まず無いけどね。」
「じゃあ、地合いは?」

紙の地合い

意味 紙の中で、繊維がどのように分散しているかを表す用語。ストックインレットの段階で、紙料の吹付が幅・流れ両方向で均一・安定していることにより、繊維が均一に分散した、『地合いの良い』紙が抄造される。
確認方法 紙を光源にかざして透かしてみると、繊維の分散具合が確認できる。

「・・・っていうことを知ってれば、逆に『地合い崩し』のファンシーペーパーをお勧めする時なんかも、説得力あると思いませんか?」
「・・・シートくん・・・ちゃんと営業マンとして成長してるんだね・・・・・・!」

「営業マンとしては成長してるかもしれないけど」
話す二人の後ろから、帰り支度を整えたパレットちゃんが声を掛けます。
「他は色々まだまだだよねぇ、シートくんって。」
「・・・え?それって・・・」
「ロールちゃんの格好、ちゃんと見てごらんよ。」
改めてロール先輩を見たシートくん、既に帰り支度をほぼ終えている様子に気づきます。
「・・・先輩、ひょっとしてお帰りになるところでした?」
「今日はちょっと用があって、ね。」
「・・・すみませんでした!!」
勢いよく頭を下げ、そのままの勢いで走り去るシートくんの後ろ姿に、ロール先輩、溜息を吐きます。
「有難う、パレットちゃん。正直助かったよ。」
「どういたしまして。・・・シートくんって、紙で言うと、針葉樹より広葉樹だよね。」
「・・・どうして?」
「ベッセルピック多そうな感じとか?」
それとも脱気が上手く行ってないって言った方が良い?さらっと続けたパレットちゃんの可愛い笑顔から、つい視線を逸らしてしまうロール先輩なのでした。

(初掲載:2014年6月10日、加筆修正:2019年12月5日)

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