【紙のソムリエ】新入社員シートくんとロール先輩の紙修行 ⑩ 高板とボールをつなぐ環 ~特殊白板紙~
ある日のこと。いつになく真剣な表情で自分の手を見つめるロール先輩に、通りがかったシートくん、声を掛けます。
「どうしたんですか、ロール先輩。顔、怖いですよ。」
「・・・すごく失礼な発言だけど、今は怒る元気もないよ・・・」
「え?!先輩が反論しないなんて、一体どんな天変地異が?!」
「・・・・・・歯が痛いんだよ・・・」
言われて見ると、ロール先輩の手には痛み止めの箱が。
「何だ、薬、持ってるんじゃないですか。早く飲めば良いのに。」
「薬嫌いなんだよ・・・でも、我慢できなくなってきてるし・・・・・・」
「先輩が薬を飲めば、その薬の箱の回転が良くなって、箱を作ってる会社の業績が良くなって、結果、経済が良くなりますよ?みんなのためだと思って。」
すっかり他人事のシートくん、軽い調子で勧めながら、ふと箱を見つめます。
「先輩、その箱もこの前教えてもらった高板ですか?」
「うーん・・・違うと思うよ・・・薬品パッケージは特板が多いしね。」
「特板・・・特殊白板紙でしたね。高板より1ランク下の。」
「そうだね。ちなみに高板と特板の違いは何か覚えてる?」「えっと・・・」
特殊白板紙 | アイボリー | 表層・裏層・中層に晒化学パルプ100%使用 |
カードA | 表層・裏層は晒化学パルプ100%、中層は古紙系パルプ | |
カードB | 基本的にはカードAと同じ構成だが、古紙配合率はカードAより高い。 |
「基本、高板は両面塗工が多くて、特板は片面塗工品のみ、っていう違いがあるだけで、原料構成は高板と同じですよね。」
「元々特板は、高板の片面塗工品のうちの低グレード品の一部が特板として独立した、ていうものだからね。」
「生まれは同じってことですか。」
「まだ片面か両面かの塗工の違いがあるから、高板とは区別がつけやすいと思うよ。カードBなんか、その下のグレードの『コート白ボール裏白』とどう違うのかって言われたら、説明する自信無いもの。」
「高板の低グレード品でもあり、白ボールの高グレード品でもあり・・・特板は高板と白ボールをつなぐミッシングリンクってことですね!」
「いや、そもそも失われてないから・・・・・・」
「あ、あともう一つ高板と違うところと言えば、蛍光染料が使われていないことかな。」
「そうか、高板は印刷用途が多いから、蛍光染料でより白くされている製品も多いんでしたっけ。」
「そう。特板は用途が食品や薬品、化粧品のパッケージ、特殊加工をされて食品カートンや紙皿なんかに使われることも多いから、蛍光染料が原則使用されていないんだよね。まあ、原料の古紙に含まれる場合があるから全くゼロではないものもあるんだけど。」
「銘柄としてはどんなものがあるんですか?」「特板の主な銘柄は・・・」
メーカー | 特板アイボリー | カードA | カードB |
王子 | Newピジョン (F)ピジョンカード |
||
日本 | NEWウルトラH ウルトラH |
ビライトカード NEWリファイン |
JETエース JETエースW |
中パ | シェリィSZ | ||
北越 | NEWタフアイボリー | ハイクリーンコート NEWクリーンコートV |
NEW-DV |
三菱 | Nパールデラックス | ハイパール 三菱ピュアプレート |
NパールカードFSC🄬認証-MX |
(※2019年紙業手帳より数点を抜粋)
「高板の時も思いましたけど、特板も同じグレードでもいくつかの銘柄があるんですね。」
「お菓子とか、化粧品とか、色々な日用品とか、この手の高級パッケージって、毎日目にするもので、本当に数が多いでしょう?その分、ユーザーさんの要求も厳しくて、日々色々な開発とか品種改良とかがされてるらしいよ。その結果、銘柄も増えちゃうんだろうね。」
「で、先輩、薬、飲まないんですか?」
「忘れてた・・・思い出したら、すごく痛い・・・・・・」
「まあまあ、ちゃんと飲んだら良いものあげますよ。」
にこにこしながらシートくんが懐から取り出したのはあるお菓子の箱。
「これも特板ですよね?」自信満々に言うのに、ロール先輩、冷たい目を向けます。
「違うよ、それはコート白ボール。」
「えーっ!?だって先輩、この前、これは特板だって・・・!」
「この前のお菓子の箱は特板だけど、シートくんが持ってるのはそれの味違いでしょ?同じメーカーの同じシリーズのお菓子だからって、箱にも同じ銘柄を使ってるとは限らないよ。」
よく見てみなよ、と冷たく言われ、落ち込むシートくん。歯が痛い人間にお菓子を見せびらかした報いだよ、と冷たく笑う、歯痛のせいでちょっぴり黒いロール先輩なのでした。
(初掲載:2013年1月10日、加筆修正:2019年11月14日)