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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 ⑰ 馴染みは無いのに懐かしい?~中級紙・下級紙~

ある日の昼休み。にこにこしながらプリントを眺めるシートくんに、手元を覗き込んだロール先輩。
「・・・『夏の親子キャンプのご案内』?・・・シートくん、子供さん、いたっけ?」
にやけた顔で、シートくん、頭を振ります。
「姪の学校のです。本当は義兄が参加する筈だったんですが、急に仕事が入っちゃって・・・そしたら、姪が『私、おーちゃんと一緒に参加したいな。』って・・・それがもう、可愛くて可愛くて・・・!」
えへえへ笑い続けるシートくんから眼をそらし、ロール先輩、プリントに目を戻します。
「へえ、2色刷りなんだ。デザインも工夫してるし、最近は学校のプリントも凝ってるねえ。」
「紙はわら半紙ですけどね。」
「まあ、でも、学校のプリントって昔からざら半紙なもんでしょ。」
「?先輩?『ざらばんし』って言いました?」
「え?」
「『わらばんし』ですよね?」
「ああ、えっと・・・まあ、良いじゃない。どっちも同じ意味だし、ある意味、どっちも間違ってるとも言える。」
「?」
「学校で使われる紙って、紙の用語で言うと、中質紙更紙でしょ?大きい分類でいうなら中級印刷用紙とか下級印刷用紙。」
「なるほど。あ、でも僕、仕事ではあんまり、中質とか更とか使ったこと無いです。」
「上質紙に比べると、確かに出番は少ないかな?でも、上質紙より良いとこもあるんだけどね。」

「分類上は非塗工印刷用紙の一種ですよね?」「そう。表にすると・・・」

印刷・情報用紙
非塗工印刷用紙
上級印刷用紙(上質紙はここに分類)
中級印刷用紙(いわゆる『中質紙』)
印刷用紙B 白色度75%程度以下。書籍や教科書、雑誌本文用紙などに使用。
印刷用紙C 白色度65%程度以下。雑誌本文用紙などに使用。
グラビア用紙 雑誌などのグラビア印刷に使用。
下級印刷用紙=更紙
印刷用紙D 白色度は55%前後。雑誌本文用紙などに使用。
特殊更紙 漫画誌の本文などに使用。

「白色度がどんどん下がっていくのは晒化学パルプの配合量が減るから?」
「ものすごく大雑把にいうと、木材って、セルロースっていう繊維同士をリグニンっていう接着剤がくっつけてることで、木になってるんだよね。で、紙を作るのに必要なのはセルロース。これはもともと白い。一方のリグニンには色が付いている。」
「白い紙を作るためには、リグニンを取り除いてしまえば良い?」
「そういうこと。それを薬品でやっているのが、晒化学パルプ。」

晒化学パルプ 加熱した薬品でリグニンを溶かして取り除き、未晒パルプを生成する。この段階ではまだリグニンが残っているため茶褐色だが、これを更に漂白してリグニンを取り除くことで、晒化学パルプとなる。
機械パルプ 木材チップをすりつぶして得られるパルプ。リグニンを除去していないため白くはならず、また、すりつぶす段階で繊維が傷められているので弱い漂白しかできない。

「ちなみにリグニンは太陽光で退色するから、機械パルプが多く含まれた紙は退色もしやすい。」
「じゃあ、全部の紙を化学パルプで作っちゃえば良いんじゃないですか?」
「機械パルプを使う利点もあるからね。それが 、上質紙じゃなく、中質紙以下を使う利点にもなるの。中質紙や更紙の良いところは・・・」

歩留まりが高い 化学パルプの場合、パルプになるのは木材の50%程度。機械パルプの場合は90~92%がパルプとして得られる。
不透明度が高い 上質紙よりも不透明度が高く、裏抜けがしにくい。
嵩高 機械パルプの使用により嵩高な紙が出来る。
油吸収性が良い 油吸収性が良いため、インキの乾きが早い。

「こういう特性を生かすとなると、どんなものに向いてると思う?」
本文用紙ですよね。あとチラシ。」
「そういうこと。書籍、教科書、雑誌、マンガ本、電話帳用紙とかね。そして、こういう、学校や官庁で使う簡易印刷機の用紙にも多用されてるってわけ」

「主な銘柄はこんな感じ」

メーカー 中質紙 更紙
王子 OKエバーライトW、OKアドニスラフ80、
OKスターライト、OKアドニスラフ75、
OKアドニスラフ70
OKニューライト
苫更
日本 ハイランド、ジャストランド
フロンティタフ80、フロンティタフ75、フロンティタフ70、
フロンティタフW、釧路プラチナバルキー
大王 ダンテコミック
タイオウハイネ
おうむ大ラフS
おうむS
北越 セミ上質
シロマリ
トクギンマリ
丸住 スターエルム、スターロベリアホワイト
スターローレル、スターロベリア
やよい

(2019年度版紙業手帳より)

「一つのメーカーにいくつもの銘柄があるのは、グレードが違うからですか?」
「それと、米坪が低いのに不透明度が高い商品とか、より嵩高とか、それぞれ特徴があるから、詳しくは紙屋さんに問い合わせてみてね。」

「それにしても先輩、わらでも何でもないのに、『わら半紙』って言うのは何故ですか?」
「明治時代には本当に、稲のわらが原料だったらしいよ。でも、わらが採れるのって、お米の収穫が終わった秋だけでしょ?1年分の原料を在庫しておかなきゃいけないし、技術が進んで他のパルプの方が安価になったりして、だんだん使われなくなって、今では言葉だけが残ってるって経緯みたい。」

「そう言えば、マンガ雑誌って、ページによって色がピンクだったり、みどりだったり色々でしょ?あれ、季節によって売れる色が違うから、とか、ちゃんとした理由もあるんだけどね。・・・・・・・って理由もあるんだって。」
「そんな単純な話なんですか?」
「らしいよ。ほかにも、同じ色の中でも、また、別の裏話があるんだけど、それはまた今度ね?」
「それは良いけど、先輩、『ざらばんし』って何ですか?」
「・・・それは忘れていいから。」
「『わらばんし』が正しいんですよね。じゃあ、『ざらばんし』ってもしかして・・・」
「うるさいよ、自分。自分だって、『B紙』とか『くろにえ』とか『じぇじぇ』とか言っちゃう国の人のくせに。」
「『じぇじぇ』は違います、先輩。それに、『くろにえ』や『じぇじぇ』のどこが悪いんですか?205万人の岐阜県民と131万人の岩手県民の皆様に謝って下さい!」
プリントを前にぎゃあぎゃあと自分の故郷を擁護しあう、のんきで平和な昼休みなのでした。

(初掲載:2013年8月10日、加筆修正:2019年11月19日。ちなみに両県の公式サイトによると、2019年10月時点の推計人口は、岐阜県が約198.9万人、岩手県が約122.6万人。)

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