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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 ⑯ 『和紙』には『和紙』と『洋紙』がある?

「先輩、こんなお仕事受けてきちゃったんですけど、どうすれば良いですか?」
今日も営業帰りのシートくん、カバンを置くのもそこそこに、ロール先輩のもとに飛んできます。手に握られているのは名刺の見本。しかも、普通の名刺とは一風変わった、ふちが不揃いの和紙の名刺です。
「へえ、和紙の名刺なんだ。」
「この方、競技かるたの審判員をされてるんだそうです。随分以前に作ったものらしくて、どこで作ったのか覚えてないし、君のところで出来るなら御願いしたい、って仰って。何とかできれば、と思ったんですけど、うち、名刺の印刷って、あんまりしてないですよね?」
「基本、お受けしても外注に出してるね。それに、この原紙ずばりってことだと、いつも御願いしてるところじゃ、出来ないんじゃないかな。」
「え、そんなに難しい印刷なんですか?」
「印刷が難しいというより、紙の問題。和紙だし、耳がついてるでしょ?これだと、普通のデジタルの名刺プリンターは通せないんじゃないかな。手差しの活版印刷機を持っていらっしゃるところっていうと・・・・」
「先輩、先輩、ちょっと待って下さい。『』って?紙って、『目』の他に『耳』もあるんですか?」
「あれ、シートくん、和紙のご注文を頂いてくるのは初めて?こういう風に、紙のふちが切り揃えてない状態のことを『耳付』って言うの。別に、和紙に限らず、洋紙だって、出来たばっかりの状態の時は耳付なんだけどね。ただ、機械抄きの場合は、理由が無い限り、出荷前に紙のふちを切り揃えちゃうし、そもそも巻取で出来てくるから、前後には耳がつかない。こんな風に四方に耳が付いてくるのは手漉きの証拠、ってわけ。」
「ふうん、和紙って耳がついてるものなんですね。」
「いや、その理解はちょっとおかしいから。和紙なら全部耳が付いてるわけでもないし。」
「え?じゃあ先輩、和紙ってそもそも、どういうものなんですか?」

「逆に聞いても良い?シートくんは、和紙ってどんなものだと思ってるの?」
「えーと・・・『洋紙』の対義語?でしょうか・・・洋紙とは違って、日本に古くからある紙というか・・・」
「それ、意外に正解に近い。対義語、っていう言い方が正しいかどうかは分からないけど、 明治時代に欧米から製紙技術が日本に伝えられて、欧米式の紙が生産されるようになった、これが、西洋紙、つまり『洋紙』。これに対して、日本で飛鳥時代から生産されてきた、日本古来の紙を『和紙』って称するようになったんだよね。・・・まあ、どっちもルーツは同じ、中国なんだけどね。」
「え?『洋紙』のルーツも中国なんですか?僕、洋紙のルーツは『パピルス』なのかと思ってました。」
「パピルスは『紙』に駆逐された方だからね。ものすごく大雑把に図解すると・・・」

「こんな感じ。紙の伝来以前にユーラシア大陸の各地で使われていたのが『羊皮紙』や『パピルス』だけど、『紙』の伝来以降は使われなくなって、『paper』って名称にだけ痕跡が残ってる感じだね。」

「元は同じ、ですか・・・でも、その割に和紙と洋紙って、随分違いますよね?」
「元が同じでも、その後の発達の仕方が違うからね。ちなみに、シートくん、洋紙とは違う、和紙の特徴って、何か分かる?」
「見た目も風合いも全然違いますよ?原料の違いのせいなんでしょうか?」
「あと、すき方とかね。」

和紙の特徴
原料 楮、雁皮、三椏などの中皮部分の靭皮繊維を使用。洋紙の原料の木材パルプに比べ、繊維が長く、絡みやすいことから、滑らかで、薄くても強靭な紙が作れる。
漉き方 『流し漉き』と呼ばれる技法が主流。原料繊維が入った液に、『ネリ』と呼ばれる粘剤を加えて脱水速度をコントロール、漉桁を前後左右に揺らす(=流す)ことで繊維同士を良く絡みあわせる。天日干しにするとネリの効果は無くなり、繊維は水素結合というシンプルな結合のみで絡み合うことになる。

「越前和紙のメーカーさんの『杉原商店』さんのサイトに、和紙と洋紙の違いが載ってるんだけど、それにね、『和紙はシンプルで柔軟な作り。洋紙はコンクリートで固められた板のよう。』って書いてあるの。洋紙は『いかに量産するか』っていう方向に発展してきた紙だから、とにかく早く大量に作れるように、繊維を粉々に均一にして、不足点があれば薬品を足して、っていう風に発展してきていて、一見強いようだけど実は脆いって。それを見た時、なるほどなあって思ったんだよね。」

「じゃあ先輩、洋紙とは違う和紙の良いところって、強いってことですか?」
「それだけじゃないよ。和紙の良いところを挙げると・・・」

強靭 繊維が長いため、薄くても強靭
嵩高 脱水工程で圧搾されていないため、嵩高で柔らかな紙に仕上がる
長期保存に適 シンプルな漉き方で漉かれているため、繊維の損傷が少なく、酸化が進みにくいため、長期保存に適している
結露やカビの防止 吸湿・放湿を行える構造であるため、建材に使用すると、結露やカビを防止する効果が期待できる
アレルギーの危険性が無い 等 自然素材が原料であるため、ホルムアルデヒドを放出せず、燃やしても有害物質が出ない

「でも、勿論、和紙にも苦手な分野はある。」

オフセット印刷に向いていない 水分を吸収しやすい等の特性から、オフセット印刷には向いていない。
大量生産に向いていない 手漉きが基本のため、大量生産できず、コストも高い。

「大量生産できてコストも安くてオフセット印刷に適した洋紙が、和紙の用途を次々に奪ってしまった。今では、和紙の生産量は紙全体の0.3%、とも言われているの。でも、洋紙と違う点や優れている点が評価されて、色々な場面で使用されているのを見かけるよ。」
インテリア壁紙で使用されてるって話、良く聞きますよね。あと、封筒、掛け紙、礼状、証書、敷き紙、包装紙・・・あれ?印刷してるものも結構ありますよね?」
「洋紙よりはオフセット印刷に向いていない、っていうだけで、出来ないわけじゃないからね。ただ、色の調整とか紙粉の問題とか、洋紙より設定が難しいのは確か。・・・あと、良く刷ってる和紙って、厳密に和紙って言っていいかどうか、って問題になると・・・」
「?」
「印刷されている和紙って、殆ど機械抄き和紙なんだよね。抄き方が違うし、原料にパルプを加えてあるのもあるから、機械抄き和紙は和紙じゃない、ていう主張もあるの。実際、統計上は・・・」
「え?じゃあ、和紙の中に『和紙』と『洋紙』があるってことですか?」

「なるほど。普通に印刷できる和紙もあるけど、こういう手漉きで耳付の名刺は難しいんですね。」
「手差しの活版印刷機があるとこじゃないとこれは難しいと思う。でも、和紙は本当はコピーとかレーザープリンターとかとは相性が良いんだよ。インクジェット用も今ではどんどん新製品が出てるし・・・あ、そうだ!」
「え?」
「この名刺!杉原商店さんの『ちぎって』シリーズなら普通のプリンターで刷れて、耳付にできるよ。厚さの問題はあるかもしれないけど、ワードでもデザインできるし、お客様に提案してみたら?」
「はい!」

お客様への提案の目途もついて、一安心のシートくん。
「いつも有難うございます、先輩。今日は先輩が女神さまに見えます。」
「今日『は』、ね・・・女神さまと言えば、越前和紙の産地には紙の女神さまを祭った神社があるんだって。川上御前って言ってね・・・」
雑談モードに入った二人の傍らを、いつものようにパレットちゃんが通り掛かります。
「楽しそう、二人とも。今日は何の話?」
「和紙の話だよ。・・・そう言うパレットちゃんは、何だかお疲れだね。」
「今日は色々重なっちゃって・・・頑張った私にご褒美下さいって気分。」
パレットちゃんの言葉に、シートくん、ぽんと胸を叩きます。
「良いですよ、パレット先輩。いつもお世話になってるし、僕、おごります。何でも良いですよ。」
自販機の方に歩こうとしたシートくんを、
「待った、シートくん。何でも良いの?」
パレットちゃんの言葉に、ロール先輩、そっと目をそらしますが、シートくんは気づきません。
「勿論。何が良いですか?」
「じゃあ、せっかく和紙の話をしてたんだし、前から欲しいと思ってた和紙があったんだ。それでも良い?」
「・・・良いですけど・・・たくさんはダメですよ?」
「5枚で良いの。良い?」
「5枚ですか?ええ、それ位なら、勿論。」
シートくんの言葉に、ロール先輩、天を仰ぎます。
「やった!『びざん』ゲット!どの写真を刷ってみようかなあ?」
さっきまでとは打って変わって足取り軽く去っていくパレットちゃん。
「えっと・・・僕、何か、早まりましたか?」
「うーん、多分パレットちゃんもA1サイズとか無茶は言わないと思うし・・・言わないよね・・・まあ、でも、何というか・・・頑張れ?」
微妙なロール先輩の励ましに、背筋を汗が伝う感覚を急に意識するシートくんなのでした。

(初掲載:2013年7月10日、加筆修正:2019年11月19日)

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