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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 37 感度良好?~OCR~

街に、電車に、そして社内に新入社員がやってくる季節。
「可愛いよね」にこにこ頬を緩めて呟くロール先輩に、「先輩、落ち着いて下さい」苦笑してシートくんが返します。
「いつになくクールだね、シートくん」
「僕だってもう新入社員じゃありませんからね。」
どうやら落ち着いた頼れる先輩を演じたいらしい様子に、笑いをかみ殺してロール先輩が問い掛けます。
「で?頼れる先輩のシートくんとしては、初めに何を教えてあげるの?」
「えっと・・・給与口座開設?」
「どんだけテレビっ子なの、シートくん・・・」
「違いますよ。そういうところから話を始めて、『口座開設の用紙とか印刷とか、実は結構特殊なんだよ』って教えてあげるんです。身近な例で興味を引いて、仕事の話に進化させる。デキる先輩って感じ、しませんか?」
「自分で言っちゃうところがシートくんだよね・・・・・・」

「新人さんたちに話す前に、先輩相手に練習させてもらって良いですか?」
「デキる先輩の演技練習?まあいいけど・・・じゃあ、『シート先輩、特殊ってどういう事ですか?』」
「・・・えっと、銀行の口座振替とか、保険の契約書とか、基本的に自筆、手書きですよね。それをデータ化するには入力作業が必要ですけど、大量の手書き伝票を人間の手で入力していると、手間もかかるしミスも発生する。それを解決するために開発されたのが、『OCR』っていうシステムです。『OCR』ってどんなものか、分かりますか?」
「・・・とりあえず、知らないって前提で話を進めると?」
「先輩は勿論知ってますもんね。・・・『OCR』というのは、書かれた文字、或いは印刷された文字を読み取って、コンピューターが扱える形式に変換するシステムのことです。同様のシステムに『OMR』とか『MICR』などもあります。」

OCR 光学式文字認識(読取装置)。主に専用の読取装置などで、書かれた(印刷された)文字を読み取って、コンピューターで編集できる形式に変換するシステム。契約書や申込用紙、アンケートなどを処理するのに使用される。
OMR 光学式マーク認識(読取装置)。OCRと同様に専用の読取装置を使い、読取範囲の中にマークがあるかないか、どこにマークがあるかなどを読み取ってデータ化するシステム。テストのマークシートが代表例。
MICR 磁気インク文字認識(読取装置)。手形や小切手に使用されるもので、磁気インクを用いて独自の書体で印字された数字や記号を読み取り、手形交換などの処理を行うもの。

「『OCR』や『OMR』は光学式、『MICR』は磁気インクを使う、ということで、読取方法に違いはありますが、どちらも、書かれた、或いは印刷された文字を読み取ってデータ化する、という点では機能は同じです。で、その機能を十分に果たすために大事なことが何かと言うと・・・」と、シートくん、ロール先輩をちらりと見やり、
「本当はここで、何だと思いますかって質問したいところなんですけど、先輩は知ってますもんね・・・」
「『分かりません、シート先輩、大事なことって何ですか?』」
「先輩、棒読みです・・・読取にとって大事なことは、識字率を上げること。つまり、間違わずに読み取れる確率を高めることです。そのために、使用する用紙、或いは使用するインキも特殊なものが用いられています。OCRやOMRの場合は・・・

原理 光の反射率により、文字部分は黒、文字以外の部分は白、と認識されることによって、文字の外形を認識し、内蔵辞書との比較でその文字が何かを特定する。
用紙 文字が無い部分は白、と認識される必要があるため、平滑性が高く、ちりが混ざっていない、などの品質が求められる。一般にはOCR用紙等の使用が勧められる。
インキ 枠線など、機械に読み取ってほしくない部分の印刷には、人の目には見えるが機械には白と認識される『ドロップアウトカラー』と呼ばれるインキが使用される。(どの色がドロップアウトカラーとなるかは、読取機のセンサーの波長によって異なる)。
OMRの場合、読取範囲の指定に『タイミングマーク』と呼ばれるマーク(用紙の端にあらかじめ印刷されている黒い線)が使用されるが、このタイミングマークの印刷には『OCR墨』と呼ばれるインキが使用される。

「このように、身近な印刷物にも、実は特殊な用紙や印刷技術が用いられている場合があるのです。それをこれから一緒に勉強して、お客様に提案していきましょうね。」
にこり、とシートくん、優しく知的、と自分で思っている笑顔を浮かべます。

「どうですか、先輩。今の僕って、『デキる先輩』に見えました?」
素に戻って『褒めて、褒めて』という目をするシートくんに、
「せいぜい50点、かな?」
厳しい評価を下したのは、ロール先輩ではなくパレットちゃん。
「50点・・・」
絶句するシートくんに、
「今時、自分の持ってる資料を『自炊』するスキャナーなんて、普通に持ってる新人さんがいるんだよ、シートくん。持ってなくても言葉は知ってると思うし、ウィンドウズで使えるOCRソフトだって、普通に出回ってたりするし。大体銀行口座だって、免許証をスマホで撮影すれば、それこそOCR処理で本人確認が出来て開設できちゃう時代に、OCRって言葉だけで『デキる先輩』演じようなんて、そもそも無理があるっていうか・・・」
パレットちゃん、たたみかけます。
「お願い、パレットちゃん、もう止めてあげて。・・・多分聞こえてないし。」
「あ、ほんとだ、真っ白になってる。」
これだと読み取りできないねぇ、とけらけら笑うパレットちゃんから目を逸らして、(・・・でも、最近のOCRリーダーは上質紙を使っても読み取れるくらい性能が良くなってるから、きっと真っ白でも読み取れると思うよ、シートくん!)と、見当違いの方向に励ましの言葉を投げるロール先輩なのでした。

(初掲載:2015年4月10日、『QRコードによるスマホ決済』なんて言葉は概念すら一般には知られていない(?)時代の話です。加筆修正:2019年12月7日)

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