【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 36 混ぜるな危険?~リサイクル適性ランク~
ある日の終業後。休憩室で一人、シートくんが、疲れた様子でコーヒーを飲んでいます。
「まだ帰れないの?」
同じく疲れた様子のロール先輩、自販機で紅茶を買いながら問いかけます。
「3月はやっぱりばたばたしますよね。」
「この時期ばたばたしないと逆に怖いしね。」
椅子にへたり込んで無言で飲み物をすする二人。ふと、シートくんが問い掛けます。
「そう言えば先輩、この前中途半端になっていた話なんですけど。」
「何だっけ?」
「入札の時に教えて頂いた話ですよ。総合評価値とあわせて、大事な指標ってことで・・・」
「ああ、リサイクル適性ランクのこと?」
「それです。なんかばたばたしてる間に入札自体は済んじゃったんですけど、ずっと気になってたんですよね。」
「そう言えばシートくんって、官公庁のお客様を担当するのは今年が初めてだっけ。」
「はい。なので、リサイクルのこと、色々知っておきたいなと思って。」
「官公庁さんじゃなくても、環境に関心の高いお客様はいらっしゃるしね。」
「えっと、じゃあ、どこから話そうかな・・・まず、奈良時代に」
「は?奈良時代?」
「うん。奈良時代に関する文書に、既に、これ再生紙じゃないかな?って思われる紙の名前が出てくるんだって。平安時代、鎌倉時代、江戸時代・・・呼び方とか用途とか作られた経緯とかは色々だけど、日本の和紙の歴史には伝来した初期から再生紙が登場してるんだよね。」
「紙を再生して使うっていうのは、日本人にはなじみの深い感覚ってことですね。」
「でも、明治時代の、伝来した頃の洋紙製造には古紙はあまり使われていなかったみたい。1957年に日本でも脱墨パルプ、インキを取り除いて白くした古紙パルプの生産が始まって、それから洋紙への古紙の利用が広まっていったって話。
で、1974年に、『古紙再生促進センター』が設立されたんだけど・・・」
名称 | 公益財団法人 古紙再生促進センター |
設立 | 1974年3月26日 |
事業目的 | 古紙の回収・利用を促進することで、生活環境の美化や、紙類の安定供給、森林資源保護などを達成し、社会に貢献することが目的。 |
メンバー | 製紙会社、古紙卸会社、他 |
「1991年に容器包装リサイクル法が成立したり、社会全体で資源の有効利用を進める風潮が出てきたりで、古紙の回収率は世界のトップクラスにまで高まって来たんだけど、増えるにつれて困った問題も出てきたの。
『禁忌品』の混入もその一つ。」
「禁忌品?」
「ノーカーボン紙とか、転写紙、合成紙、つまり、もう一度紙にするには邪魔で取り除けないものがついてて、再生できない紙製品のこと。例えば、昇華転写紙、印刷した図柄を布に転写して型紙なんかにするために使う紙なんだけど、これがたった1枚混ざってただけで100トンの再生紙が使えなくなったりするんだって。」
「100トン・・・それは大問題ですね。」
「でしょ?それに、禁忌品じゃなくても、もともと印刷・情報用紙では、板紙に比べて古紙の利用率が低いっていう問題もあった。で、古紙再生促進センターさんと、印刷産業連合会さんが始めたのが、
『リサイクル対応型紙製商品開発促進対策事業』なの。」
リサイクル対応型紙製商品開発促進対策事業 | |
時期 | 1999年度~2004年度 |
目的 | 印刷・情報用紙を中心とする洋紙部門での古紙利用拡大 |
実施内容 | ①紙・板紙に再生することが困難だとされている紙製品が、何故・どの程度困難なのか、特定し、評価する活動 ②困難な要因を改良した新製品がリサイクルに適しているか評価し、またその標準試験方法を確立する活動 ③リサイクルに適した印刷物の概念や製作方法を確立し、普及する活動 |
「これは私の勝手な解釈だけど、
環境のために、ゴミになる紙製品を減らして、リサイクルできるものを増やそう ↓ じゃあ、最初から、リサイクルに適した印刷物を作って、使ってもらえば良い ↓ リサイクルに適した印刷物を作ってもらうために、 ①紙やインキなどの印刷資材、製本やニス引きなんかの加工の中で、 ・どんなものを使うとリサイクルできて、どんなものだとリサイクルできないか、はっきりさせよう ・なぜリサイクルできないのか、みんなに分かるように数値化しよう ②リサイクルできなかったものを改良する新技術が開発されたら、リサイクルできるようになったことを 数値化して、はっきりさせて、 どんな銘柄であれば使えるようになったかをデータベースに追加していこう ③リサイクルに適した印刷物を作って使ってもらえるように、みんなに分かりやすいようにして知ってもらおう |
っていう流れだったんじゃないかと思うんだけどね。」
「で、その『どんなものを使うとリサイクルできて、どんなものだとリサイクルできないか』が」
「『古紙リサイクル適性ランクリスト』というわけ。」
『古紙リサイクル適性ランクリスト』 | |
制定 | 2006年1月10日制定。2009年3月18日と2014年9月3日に改定。 日本印刷産業連合会や日本製紙連合会など、印刷・印刷資材(紙・インキ・他)・印刷機・加工などに関わる各業界団体で構成された『古紙リサイクル対応協議会』で検討・決定。 |
概要 | 古紙リサイクルを促進するため、印刷情報用紙の印刷資材・加工をABCDの4段階に分類、資材の使用と古紙の分別に利用できるようリスト化したもの。 |
「このABCDの内容が
ランク | 内容 | 該当する用紙 |
A | 紙・板紙にリサイクルするのに邪魔にならないもの | アート紙、コート紙、上質紙、中質紙、更紙、色紙やファンシーペーパーのAランクのもの 等 |
B | 紙へのリサイクルには邪魔になるが、板紙へのリサイクルには邪魔にならないもの | 色紙やファンシーペーパーのBランクのもの、グラシンペーパー、インディアペーパー 等 |
C | 紙・板紙のリサイクルに邪魔になるもの | 色紙やファンシーペーパーのCランクのもの、カーボン紙、ノーカーボン紙、感熱紙、合成紙 等 |
D | ほんの少しでも混ざっていたら取り除けないためリサイクルできないもの | 捺染紙、昇華転写紙、感熱性発泡紙、芳香紙 |
になってる。勿論紙だけが対象じゃなくて、インキ、針金、ホッチキス、糊とか、箱押しとか、クロスとか、印刷に関わる全ての資材を対象としてABCDに分類したリストになってるの。」
「普通のオフセットインキはAランクだけど、UVインキはBランクなんですね。」
「リサイクル対応型UVインキっていうのもあるよ。これはAランク。但し、どのメーカーのどの商品っていうのが指定されてるけどね。」
「厳密なんですね。」
「勿論、Dランクの商品を使っちゃいけませんってことじゃないよ。飽くまで、リサイクルに向いてるかどうか、っていう基準だから、その辺り誤解しないでね。」
「それで、これが入札とどう関わってくるんですか?」
「前に話した総合評価値と同じで、グリーン購入法の『環境物品等の調達の推進に関する基本方針』に、印刷に関する項目もあるの。古紙リサイクル適性ランクの表も、そのまま載ってるよ。」
「グリーン購入法の制定が2000年だから、『リサイクル対応型紙製商品開発促進対策事業』って、それを見据えての事業だったんでしょうか?」
「そうかもね。で、官公庁のお仕事だと、入札説明書の段階で既に、『リサイクル適性ランクがAのもの』っていう指定がされている場合があるの。古紙リサイクル適性ランクリストがB以上の資材・加工のみを使用して作った印刷物を『リサイクル対応型印刷物』って言うんだけど、これの製作ガイドラインを、2009年に古紙再生促進センターさんと日本印刷産業連合会さんが作って公表されている。これから印刷物を発注しようとする人向けのガイドラインで、概念とか発注方法とかが書いてあって、これに従うと、
発注者(官公庁さんなど) |
印刷会社 |
「リサイクルに適した印刷物を作りたい・・・」 | ①説明書などでその希望・条件を伝える ②『資材確認票』の提出を求める |
こと、となってるの。」
「『資材確認票』?」
資材確認票 | 本文・表紙・見返し・カバー・その他、それぞれに使用されている紙・インキ・加工などの 銘柄名とそれぞれのリサイクル適性ランクを明記した帳票 |
「これはリサイクル対応型印刷物ですよっていう証明書みたいなものだね。で、
発注者 |
資材確認票や他の条件を合わせて検討、発注 |
印刷会社など |
①印刷物を作成 ②製品や包装にリサイクルに向いている旨が分かる文章や識別記号を付ける ③納品時に最終版の資材確認票を提出 |
印刷物の利用者 |
印刷物利用後、識別記号などに従って分別し廃棄 |
回収された製品が再利用され生まれ変わる |
っていうのが理想の形とされているの。」
「随分詳細に規定されているんですね。」
「『環境物品等の調達の推進に関する基本方針』にもガイドラインと同じ資材確認票のひな形が載ってるよ。基本方針の文章を、表とか図を使ってより分かりやすくしたのがガイドライン、ってとこかな?」
「今の話は日本印刷産業連合会さんとか古紙再生促進センターさんのホームページにもっときちんと書いてあるから、一度読んでみてね。新開発のホットメルトの話なんかも、面白くてお勧めだよ。」
「そうですね。じゃあ今の忙しい時期が過ぎたら・・・」
言いながらテーブルの上に置きっぱなしになっていたコーヒーを飲もうとしたシートくん、あやうくむせそうになり、咳き込みます。
「ケホケホ・・・え、何このコーヒー・・・どろどろして甘い・・・・・・」
「シートくん、疲れてるみたいだから~」
いつの間にか背後に立っていたパレットちゃん。にこにこ笑うその手には、スティックシュガーの束が握られています。
「混ぜたんですか?!混ぜたんですね!ひどくないですか、パレット先輩?!」
「え?でもシートくん、元気になってるよね?」
「怒ってるんです!!」
ぎゃあぎゃあと言い合いを続ける二人を(ここにも『混ぜるな危険』の実例が・・・)と眺めながら、自分の紅茶の安全を確かめるロール先輩なのでした。
※以上の文章を作成するに当たり、日本印刷産業連合会様・古紙再生促進センター様のホームページを参考にさせて頂きました。
上記の文章中に解釈の誤り等がある場合は華陽紙業に責がございますので、弊社に御連絡下さい。
(初掲載:2015年3月10日、加筆修正:2019年12月6日)