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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 42 紙は自然の敵?~紙と木材~

休憩室。これ見よがしに溜息を吐く姿に、声を掛けてほしい内心が透けて見えるシートくん。苦笑して声を掛けるロール先輩に、堰を切ったようにに話し始めます。
「この前、先輩に教えてもらった紙の歴史なんですけど。」
「姪の宿題にはならなかったんですけど、面白かったから、話してあげたんです。昔の人が苦労して工夫して日本で紙を作れるようにしてくれたんだよって。そうしたら・・・」
「そうしたら?」
「紙は木を切って作るものだから、自然破壊だって。」
「姪っ子さん、小学2年生だったよね?自然破壊なんて言葉、知ってるんだ。頭良いんだね。」
「そうなんですよ。頭が良いだけじゃなくて、とっても可愛いんです・・・ってところじゃなくて!どういう状況だったかは分からないんですけど、姪の頭の中ではすっかり、紙を作る=悪いこと、みたいな図式になっちゃってるんですよ。」
「まあ、今どきそんな偏見じみたことを誰かが言ったとも思えないから、姪っ子さんの勘違いがあるんだろうと思うけどね。」
「確かにそうだとしても!姪にとっては、紙を作ることは悪いこと、なんです。で、その紙を使う仕事をしている僕も仲間だってことで、僕はすっかり悪の手先扱いなんですよ・・・」
しょぼんと肩を落として、シートくん、呟きます。
「一番駄目だなと思ったのは、僕がそれに反論できなかったことなんです。紙を作ることは悪いことじゃない。そう主張したいのに、それを順序立てて説明できない自分が不甲斐なくて・・・」
「紙の主要な原材料の一つはパルプ。そのパルプの原料の多くがチップ。で、チップは木材を細かく砕いたもの。その木材はどこからどうやって確保したの?ってことになった時に、その知識が無かったら、『木材切った!悪いやつ!』になっちゃうものね。」
「え・・・」
ロール先輩の言葉に、シートくん、顔を上げます。
「じゃあ、その木材はどこから?っていう知識があれば、姪に悪者扱いされなくなりますか?」
「説明はできると思う。」
ロール先輩、苦笑して、「説明を聞いた後で、悪者じゃないと思うかどうかは、姪っ子さん次第だけどね。」

「ところで、シートくん、ひょっとして、樹木1本、丸々全部紙に出来ると思ってる?」
「?違うんですか?」
「できないわけじゃないけど、そうすると紙にとって都合の悪い部分も含まれちゃうからね。大雑把に言うと、樹木って、表面の部分の樹皮と、中の部分の木部で出来てるの。で、この樹皮はパルプにするのには向いてない。」
「捨てちゃうんですか?」
「まさか。バイオマス燃料として利用されるの。で、残りの木部も、実は色々な細胞に分かれてる。針葉樹と広葉樹ではちょっと違うんだけど・・・」

種類 針葉樹 広葉樹
細胞名称 仮導管 柔組織細胞 木繊維 導管要素 柔組織細胞
細胞構成容積比 95% 5% 65% 25% 10%
細胞構成重量比 99% 1% 86% 9% 5%

(※容積・重量比は、針葉樹はトウヒ、広葉樹はカバの場合。後述『紙とパルプの科学』より参照させて頂き、華陽紙業にて編集。)
「この、針葉樹の『仮導管』、広葉樹の『木繊維』が、縦方向に繊維が長い、つまりパルプになる細胞ってわけ。」
「他の細胞はどうなるんですか?」
「柔組織細胞はパルプに加工する段階で殆どなくなっちゃうの。広葉樹の導管要素は残るけどね。印刷クレームでベッセルピックってあるでしょう?印刷した表面が紙むけして四角上に白く抜けちゃうクレームだけど、このベッセルが導管のこと。パルプ化された時に残っちゃった導管要素が紙の表面に来た時に、表面強度が足りないと導管要素がはがれて起きるクレームだって言われてるの。」

「ついでにもう少し木材の話ね。木には年輪があるでしょう?あれって、木の成長が季節によって早くなったり遅くなったり差があるから、あんな風に白い部分と色の濃い部分が出来て層になって見えるんだって。つまりね・・・」

早材部分 年輪の白く見える部分。成長が早く、細胞壁が比較的薄い。日本では春~夏に形成されるため、春材ともいう。
晩材部分 年輪の、色が濃く緻密な部分。成長が遅く、細胞壁が比較的厚い。日本では夏~秋に形成されるため、夏材、秋材ともいう。

「で、もう一つ。木を横に切った断面を見ると、真ん中に色の濃い部分があって、周りが色の薄い部分になってるよね。あれにも名前があって・・・」

心材部分 木部の中心の、色の濃い部分。細胞壁が比較的厚い。
辺材部分 心材部分の周囲の、色の薄い部分。細胞壁が比較的薄い。

「この細胞壁の薄い・厚いっていう違いが、紙になった時に影響してくるんだよね。」

細胞壁の厚い部分 繊維が固く、繊維間の結合が少ないため、密度が小さく、強度の低い紙になりやすい。
細胞壁の薄い部分 繊維がつぶれやすく、互いに絡みやすいため、密度が大きく、強度の高い紙になりやすい。

「日本では色々な樹木のパルプを混ぜて使うし、あえて細胞壁の厚い部分と薄い部分を分けてチップにしたりとかはしないんだけど、ニュージーランドではこの細胞壁の厚い部分と薄い分、例えば心材と辺材を分けて違う方法でパルプ化して、それを組み合わせることで、樹種は1種類なのに、色々な木を混ぜたのと同じ性質を出来た紙に持たせる、なんてことも行われてるんだって。」

「木材と紙の関係は分かりましたけど・・・ますます、紙=木を切ってる、って図式を強化しているような・・・・・・」
「今の紙の主要な原料の一つが木だってことは、まぎれもない事実だからね。姪っ子さんだけじゃなくて、紙の仕事に関わっていない多くの人が、まだまだ、紙は木をがんがん切って作ってる、って思ってる部分があるんじゃないかな。でも、実際はそうじゃない。例えば、古紙再生促進センターの資料によると・・・」

古紙利用率 製紙用繊維原料合計消費量に占める古紙及び古紙パルプ消費量の割合。つまり、薬品などを除いた、紙を作る原料として、古紙由来のものがどの程度使われれているか、ということ。
日本の古紙利用率 2013年度の利用率が紙・板紙合計で63.9%。内訳として、紙で41.0%、板紙が93.3%。

「つまり、平均すると紙の6割が古紙で出来てるってこと。まあ、紙と板紙は利用率が違うし、その中でも、新聞紙や中質系、衛生用紙なんかでは比較的利用率が高くて、上質系や包装紙では極端に低いって違いがあるんだけどね。でも、平均して60%超の利用率は世界でも高い方なんだから、この一点でも、紙はエコな商品なんだって説明できると思うよ。」

「古紙の利用が60%以上かあ・・・でも、残りの40%は木材パルプなんですよね。それに、古紙だって元は紙で、木でしょって言われたら・・・」
「木材の出所が問題になるってわけだよね。で、その木材チップの内訳なんだけど、例えば、王子製紙の中部営業支社長さんが華陽紙業さんの今年(※2015年当時)の新年会で講演した話によると、王子製紙さんの木材チップの内訳は、75%が植林木、20%が製材廃材等、残り5%が低質材なんだって。つまり・・・」

植林木 森林を長く維持するために、計画的に植林・伐採を行っている森林からの木材。
製材廃材 家などを作るために切られた木材の、柱などを取った残りの部分。
低質材 曲がっていたり腐っていたりして建築に使えない部分。或いは、元々樹種が建築に向いていない木材。

「日本製紙連合会さんのサイトを見ると分かるけど、日本の製紙メーカーさんは製紙産業を資源循環型産業って位置付けているの。紙は人間の文明に絶対必要、でも、当然限りある資源は有効利用しなきゃいけない。だから、きちんと計画して、植林・伐採を行って、森林資源が末永く残るように努力しているってわけ。」
「メーカーさんの植林面積って、日本の県の面積と比較しても広大だって分かりますもんね。それに、建築では使えなくて捨てちゃうしかないような部分も、ちゃんと活用しているんですね。」
「カスケード利用、って言うんだけど、切られた木が、まず建材用に加工されて、残った部分が製紙用のチップになって、更に残った部分が燃料になって・・・ていう風に、余さず、残らず、有効利用されているんだよね。それも、製紙産業は環境を大切にしてるよっていう一つの説明になると思うよ。」

「他にも、そもそも木を伐らないとどうなるか、とか、違法伐採対策が、って話もあるんだけど、情報が多すぎるだろうから、また今度ね。」
「そうですね。今の話でもきっと分かってくれると思います。先輩、僕、自信が出てきました!」
「はは・・・まあ、個人的には引っかかる部分が無いとは言えないんだけど・・・」
「え?」
「例えば・・・シートくん、『拡大造林』って言葉は知ってる?今から60年くらい前の話なんだけど・・・・・・」
話を続ける二人に、
「あれ?ロールちゃん?お昼休み終わったよ?・・・営業部は昼一で会議じゃないの、シートくん?」
声を掛けたのは通りすがりのパレットちゃん。
慌てて休憩室から飛び出すシートくんの後ろ姿を眺めながら、苦笑して、パレットちゃん、肩を竦めます。
「シートくんに、スギとヒノキが、とか、樹種が、だとか、そんな話をしても通じないと思うよ?はあ、それが?で終わっちゃいそう。」
「って言うと、パレットちゃんは、どうかなって思うってこと?」
「『多様で健全』?ん?って感じかな。」
「だよね。取り越し苦労だって言われればそれまでなんだけど・・・って、パレットちゃん、どの辺りから聞いてたの?」
「えっと・・・木材チップの75%が植林木で、って辺り?」
「結構前!・・・それなら会議が始まる前に声を掛けてくれることもできたんじゃ・・・・・・」
「え?」
にっこり微笑むパレットちゃんの笑顔に、「・・・ナンデモナイデス・・・・・・」過酸化水素の中に浸けられたような気持ちになるロール先輩なのでした。

※文中敬称略
※この文章を作成するに当たり、下記の本や論文等を参照、或いは引用させて頂きました。
「紙とパルプの科学」 山内龍男 京都大学学術出版会 (2006年)
「紙の知識100」 王子製紙・編著 東京書籍 (2009年)
「日本の紙リサイクル」 公益財団法人 古紙再生促進センター (2014年)
環境省、林野庁、日本製紙連合会の公式サイト、他

(初掲載:2015年9月10日、加筆修正:2019年12月9日)

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