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【紙のソムリエ】新入社員シートくんとロール先輩の紙修行 ⑧ 秘密の包装紙

夜の帳が降り始めたある日。自販機のある休憩スペースの方へふらふらと歩いていたシートくん。気付いたロール先輩が声を掛けます。
「どうしたの、シートくん、今日は遅くまで会社にいるんだね?」
「あ、ロール先輩・・・急ぎの封筒の配達を頼まれて、仕上がりを待ってるところなんです・・・」
「?それだけにしては、何だか元気無さすぎじゃない?」
「配達は良いんですけど・・・今日、お昼食べ損ねちゃって・・・お腹が空いて空いて・・・」
苦笑したロール先輩、ちょいちょいとシートくんを手招きします。「何ですか?」「良い子のシートくんにご褒美」「?・・・・・・!」「私のお夜食なんだけどね。好きなの1個選んで良いよ。」シートくん、思わず涙目でロール先輩を見つめます。「有難うございます、ロール先輩!これから先輩のこと、『すみれさん』って呼びます!」「いや、呼ばなくて良いから・・・」
すっかり元気になったシートくん。休憩スペースで夜食の準備をしてニコニコ待ちながら、飲み物を買っているロール先輩に話しかけます。

「そう言えば、先輩、この前、年配のお客様から、『ハトロン紙の封筒持って来て』って頼まれたんです。」
「うん。それで?」
「どんな封筒のことか分からなくて戸惑ってたら、『茶封筒だよ』って。結局、普通のクラフト封筒のことでした。」
「ああ、茶色の包装紙を全部『ハトロン紙』って言われる御客様、いらっしゃるよね。」
「それってどうしてなんですか?・・・あ、それに、僕、不思議だったんですけど、どうして包装紙にだけ『ハトロン判』って寸法があるんですか?『ハトロン紙』と何か関係があるんですか?」
「うーん、どこから説明しようかなあ・・・ちなみに、シートくん、薬莢って分かる?」「は?」

「まあ、とりあえず薬莢はおいといて」「おいとくんですか?!」「後で説明するから。で、シートくん、まず基本的な話。包装用紙って、どんな紙かは分かってる?」
「文字通り、包装するための用紙、ですよね?」
「その通り。じゃあ、何のために包装するの?」
「えっと・・・
①運びやすくするため、とか、
②保存・保管のため、とか」
「あと
③包装したものをより綺麗に見せるため、とかね。じゃあ、そういう用途の包装用紙に一番に必要とされる品質は?」
「・・・」
「包んだものを運搬や保管の間守らなきゃいけないし、破れちゃいけないわけでしょ。だから」
「・・・強いこと?」
「正解。包装用紙に求められる品質は、まず強度とか耐久性。だから、強度を上げるために、色々な工夫がされているの」

原料 剛直で繊維の長い針葉樹(ベイマツ、アカマツ)が主体。用途によっては広葉樹も。 「ちなみに、『クラフト』自体の語源がドイツ語の『力』の意味の『クラフト』らしいよ」
「とにかく強い、っていうメッセージでしょうか・・・」
パルプ 強いパルプを得られるクラフトパルプ(KP)化法で製造。
包装紙を『クラフト紙』と言うのはこれに由来。

「で、お米やセメントを包むんならこのままで良いんだけど、印刷して綺麗な包装紙にしたい場合、このままだと不都合でしょ?だから漂白して白くするわけ。」
「漂白剤なんか使ったら、繊維弱くなっちゃうんじゃ?」
「その通り。でも、そもそも原料が違うから、上質紙なんかよりはずっと強いままなんだけどね。で、漂白の有無で名前も分類も用途も変わってくるの。」
漂白したものが晒包装紙で、してないのが未晒包装紙?」
「そういうこと」

未晒包装紙
重袋用両更クラフト紙 米麦等農作物、肥料、セメント等を入れる大型袋に使用。数ある包装紙の中でも、特に強度(引っ張り強さ、伸び、耐湿性)が必要とされるもの。
その他両更クラフト紙
一般両更クラフト紙 『両更クラフト』と呼ばれる、茶色い包装紙。角底袋、一般包装用、加工原紙等に使用。
特殊両更クラフト紙 『半晒クラフト』と呼ばれる、少し漂白を施された包装紙。事務用封筒に多く使われる。
その他未晒包装紙
筋入クラフト紙 筋模様のある、片艶の薄い包装紙。封筒、果物袋などに使用。
片艶クラフト紙 片艶の未晒クラフト。果物袋、合紙、建材用原紙等に使用。
その他未晒包装紙 上記に含まれない未晒包装紙。
晒包装紙
純白ロール紙 片面に光沢を付けた、純白で上質地合いの紙。デパート等の包装紙、小袋、日めくりカレンダー、建材用原紙、アルミ箔貼合等加工原紙等に使用。片艶晒クラフトと製法は同じだが、純白の方が薄物。
晒クラフト紙
両更晒クラフト紙 単に『晒クラフト』と呼ばれる事が多い、白い包装紙。長網抄紙機で抄造。包装紙、手提げ袋、封筒、産業資材加工用等に使用。
片艶晒クラフト紙 純白ロール紙と同じく、片面光沢の純白の包装紙。純白ロール紙より紙厚があり、用途的により強い強度が要求されるため、針葉樹パルプの配合率が高い。手提げ袋、薬品・菓子・化粧品などの小袋、加工用などに使用。
その他晒包装紙
薄口模造紙 ヤンキーマシンで抄造し、スーパーカレンダー仕上げを施した、両面高光沢な薄手の紙。伝票や一般包装、薬袋等に使われる。
その他晒包装紙 上記以外の晒包装紙。

「ちなみに、学校なんかで使う『模造紙』は、実際には『薄口模造紙』よりは『上質紙』なことが多かったりするんだけどね。」「『もぞうし』?」「ああ、こっちでは『B紙』って言うんだっけ。でもシートくん、『B紙』って東海地方以外では通じないからね。」「ええっ?!」

「でも先輩、一口に包装紙って言っても色々な種類があるんですね。」
「その上、更に、メーカーによって色々な銘柄があるからねえ。」
お客様の好みも結構分かれますよね、包装紙って。純白と言えば北越紀州の『はまゆう』でしょ、とか、可児に工場がある地元の大王製品が良い、とか」
「あと、同じメーカーが同じ品種で複数の銘柄を作っている場合もあるしね。例えば王子製紙の場合、晒クラフトでは『OK晒クラフト』『アカシヤ』『クジラ』の銘柄があるし、半晒クラフトでは『OKゴールド』『金門』、純白ロールでは『白夜』と『RC純白ロール』がある。これがそれぞれどう違うかっていうと・・・」
「わあ、先輩、止めて下さい!これ以上は脳の容量オーバーです!」

「じゃあ、軽い話に戻ると」「軽い話?」「何故『ハトロン判』『ハトロン紙』なのか」「ああ!『薬莢』ですね?・・・『薬莢』って、鉄砲なんかで弾丸を発射するための火薬が詰まってる筒のことですよね?」「そう。それ、もともと紙だったんだって。」「紙?」「一発分の弾丸と火薬を紙で包んで持ってて、撃つ時に紙を破って装てんしてたんだって。この紙が片艶の茶色い紙で『薬莢紙』、元々作られたドイツの言葉で言うと『パトローネンパピァー』。」「ああ、だから」「そう。ここから茶色い包装紙を『パトロン紙』、或いは『ハトロン紙』って呼ぶようになったって。で、この紙の、戦前日本で作られてた時の寸法が3尺X4尺、つまり、909X1212ミリ。これが戦後に端数を調整されて900X1200ミリ、今の『ハトロン判』になったってわけ。」「なるほど・・・」

「まあ、でも、今となっては、本来の意味の『ハトロン紙』は製造されてないって話だし、包装紙の呼称としては『クラフト紙』の方が一般的なんだけどね。」
「でも面白いです!お客様に雑談で話しても良いですか?」
「良いと思うよ。でも、肝心の包装用紙の商談も忘れないでね。」
「勿論です。封筒とか、包装紙とか、ですよね?」
「それだけでもないよ。絆創膏の袋とか、アイロン転写の転写用紙なんかも純白ロールだしね。普通は米袋に使う重袋をアパレルブランドが洋服の包装バッグに使ったこともあるよ。それに・・・」
ロール先輩、急にくすりと笑い声を上げます。
「もっと身近に、包装用紙を使ってるものもあるしね・・・」
紙パックのストローをくわえて含み笑いするロール先輩、
「身近、ですか?」
分けてもらったお夜食をずるずるすすりながらシートくんが問いかけても、ロール先輩は笑うばかりで何も答えてはくれなかったのでした。

(初掲載:2012年11月10日、加筆修正:2019年11月12日。文中で『北越紀州』は現・北越コーポレーション、また、『王子製紙』となっていますが、2019年11月現在、王子ホールディングスの包装用紙は王子マテリアにて製造されています。)

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