新入社員シートくんとロール先輩の紙修行 ④連量は厚さじゃない?
ちょっと仕事に慣れてきたシートくん。
今日は先輩に頼まれて、お客様への見積のお手伝い。
「えーっと、冊子の本文・・・紙は日本大昭和板紙の『ラフクリーム琥珀』を使用・・・4/6判<62>の厚さを測っておいて、か。」
シートくん、前にロール先輩に教えてもらった、冊子の厚みのことを思い出します。
「本文の厚さによって、背表紙の長さが変わるからだよね。よーし、見本帳を探して測ってみよう。」
意気込んで探し始めるシートくん。でも『ラフクリーム琥珀』の見本帳が見当たりません。
やっと見つけ出せたのは・・・「『淡クリーム琥珀』?」
どうやら同じ日本大昭和板紙の書籍用紙、先輩に頼まれたのは4/6判<62>の厚さでしたが、この『淡クリーム琥珀』にも4/6判<62>があります。
「連量が同じなら厚さも同じだよね?メーカーも同じだし、同じ書籍用紙だし、これで代用できるってことかな?」
さっそく厚みを測ろうとしたところに、たまたま通りかかったロール先輩、シートくんの持っている見本帳を見て「あれ?」と声を上げます。
「あれ、シートくん?さっき先輩に頼まれてたのって『ラフクリーム琥珀』の厚さじゃなかったっけ?
それ、『淡クリーム琥珀』の見本帳だよ?」
「あ、ロール先輩。『ラフクリーム琥珀』の見本帳が見当たらなくて・・・
同じ連量だし、厚さを測るだけならこれで代用できるのかな?って思ったんですけど。」
シートくんの言葉に、ロール先輩、ちょっと肩を落とします。
「シートくん、ひょっとして『連量』って厚さのことだと思ってる?」
「え、違うんですか?だって<55>より<70>、<70>より<90>の方が厚いって・・・
つまり、連量が大きいほど厚いってことなんじゃあ・・・」
「同じ紙ならね。でも、違う紙どうしだとその法則は成り立たないよ。そもそも、連量は厚さじゃないしね。」
「?じゃあ、連量って何なんですか?」
「連量は重さ。正確に言うと、1連っていう単位当たりの重量、っていうのが正解。」
「先輩、ひどいです。僕だって、連量=1連の重量だってことは分かってますよ。」「じゃあ、1連ってそもそもいくつ?」「洋紙と板紙で違いますよね。」
洋紙の場合 | 1連=全判1000枚、つまり「4/6判1連」=「4/6判1000枚」。 1R(いちれん)と表記する。 |
板紙の場合 | 1連=全判100枚、つまり「4/6判1連」=「4/6判100枚」。 洋紙と区別するために「1ボード連」=「1BR」(いちびーれん)と表記する。 |
「じゃあ、『4/6判で連量<62>の紙』って要するにどういう意味かは?」
「それも簡単すぎますってば。」
4/6判<62>(しろくばん62きろ)
=4/6判の紙を1000枚(=1R)重ねて測った重量が62kg
「ついでに、米坪とか坪量は分かる?」「分かりますよ。紙1㎡当たりの重量(g)ですよね。つまり、」
「完璧じゃない、シートくん」「えへへ」「そこまで分かってるんだから、今まで話してきたことが全部、重量の話だってことは当然分かってるよね?」「・・・それはそうなんですけど。」
ごそごそと自分の机をあさりだしたロール先輩、『ラフクリーム琥珀』の見本帳を取り出します。
「あ!『ラフクリーム琥珀』!先輩が隠してたんですか?」
「人聞き悪いな。貴重品だからちょっと保護してただけだよ。・・・それより測ってみて。」
言われるまま、『淡クリーム琥珀』と『ラフクリーム琥珀』の厚さを測ってみたシートくん。
「うわっ!なんで20ミクロンも違うんですか?」
連量は同じ、米坪もほぼ同じなのに、紙厚は20ミクロンほど『ラフクリーム琥珀』の方が厚いのにびっくりです。
「前にも言ったけど、最近の書籍はより軽く、それから、ページ数の少ない本でも厚みを出す、が主流なの。同じ米坪で紙厚が出るラフ肌や嵩高紙がより使われるのはそういうわけ。逆に、同じ本文100ページでも、『淡クリーム琥珀』と『ラフクリーム琥珀』じゃ、まったく本の厚みが違ってきてしまうの。同じ書籍用紙だからって、代用は出来ないんだよ。」
「そうなんですね・・・」
「同じ原料で同じ抄き方をする同じ銘柄なら、当然連量が大きい方が厚くなるよ。でも、そもそも原料や填料、抄造方法まで違う二つの製品は、同じ連量でも全く厚さが違う思わなきゃね。」
「すみませんでした・・・」
安易に代用しようとしていたシートくん、しゅんと項垂れます。
「ちなみにシートくん。ある紙の1枚の厚さを測って100倍したものと、同じ紙を100枚重ねて厚さを測ったものでは、どちらが厚いと思う?」
「え、同じじゃないんですか?」
「残念。100枚重ねて測ったものは、数字上の100倍より薄くなるの。紙の表面にはでこぼこがあるでしょう?それが重ねた時に相殺されて、単体で測って100倍したものより薄くなっちゃうんだよね。だから、新しい紙で新しい書籍を作る時は、束見本って言って、書籍になった時の厚さを測るためだけの見本を作ることもあるんだよ。」
「本の厚さがばらばらだと、それだけで売上に影響することもあるの。だから、厚みって、数字が示す以上に重要な指標だって、覚えておいてね。」
ロール先輩は笑っていましたが、自分の怠慢を指摘されたようで、シートくん、立ち直れません。慣れてきた頃が怖いってこういうことかな・・・と落ち込む、まだまだ初心者マークのシートくんなのでした。
(初掲載:2012年7月10日。文中の『日本大昭和板紙』は2019年11月現在、『日本製紙板紙事業部』となっています。)