【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 29 目はとっても大事です~基礎知識復習④~
「そう言えば、僕、トラウマになってることがあって・・・」
ロール先輩の指導の下、後輩への勉強会の資料を作るシートくんが遠い目をして呟きます。
「トラウマって?」シートくんには馴染まないワードに、ロール先輩、不審げに聞き返すと、
「先輩が話してくれたことですよ。」笑ってシートくん、言い返します。
「昔、目なりが混ざって届いた紙があって、大騒ぎになった、って話してくれたじゃないですか。(③『目を無視すると、とっても怖い?』)あれを聞いて、僕、絶対目なりだけは間違えないようにしよう!って思ったんですよね。」
自分のまとめた資料を読み返し、シートくん、溜息を吐きます。
「僕、まだ、そういう経験してなくて・・・この資料で後輩たちに、目なりって大事だよ、って、ちゃんと伝わるでしょうか?」
いつになく弱気なシートくんに、ロール先輩、苦笑します。
「上手くまとまってると思うけどね。心配なら、もう一度確認してみる?」
「新入社員さんたちは、まず『紙に目があるってどういうこと?』から始まるわけだから、
①紙の目って何?
②どうやってできるの?
③なぜ大事なの?
が、伝われば良いわけでしょ?シートくんの資料だと・・・」
紙の目とは | 紙の原料である植物繊維が並んでいる方向。平判にカットした時、長い辺に平行に繊維が並んでいるものをT目、短い辺に平行なものをY目という。 |
どうして目ができるのか | 紙を作る(抄造)過程で、植物繊維は水に溶かされた状態で網の上に吹き付けられる。水中にある時、植物繊維は水の流れに沿って並ぶので、一定方向に並んで吹き付けられ、そのまま乾燥されるため、出来上がった紙でも植物繊維は概ね一定方向に並んでいることになる。川の流れに漂う水草をイメージすると分かりやすい? |
紙の目の性質 | 目があることによって ①目と並行に破りやすい ②目と並行に折り曲げやすい ③目と反対方向に伸びやすい などの性質が見られる。 |
目に関連して 注意すべきこと |
①折り加工がある場合は、紙の目と並行に折るように面付けをするのが原則。紙の目と折る方向が逆になると、折りにくく、折り目がまっすぐにならなかったり、折り機が止まってしまったりするトラブルが起こることがある。 ②厚い紙を折る場合など、目に直角に折ると、植物繊維が折る力に反発し、紙の表面がはがれたように裂ける場合があるので、必要であれば筋入れ加工をする。 ③書籍の場合は、本の背に紙の目が平行になるように製作するのが原則。ページがめくりやすく、表紙を付ける時に糊がつきやすい、製作後長期間になっても背がはがれたりするトラブルが起きにくい、などの利点がある。 |
「・・・こんな感じで、必要なことは網羅されていると思うけど。」
「さらっとし過ぎてませんか?」
「それなら、テストっぽいことを付け加えてみれば?寸法の話をした時に、あえて取り都合が悪い面付けをすることもある、って話をしたんでしょう?それは何故か分かった?っていう風に話を持っていくのはどうかな。」
例題 | 仕上がりB5の冊子の表紙を『レザック66 桜 175kg』で作るとすると、全紙1枚から表紙が何枚取れますか?(冊子の背の幅は考えないものとします) | |
考え方 | ①冊子の寸法はB5なので、182ミリX257ミリ | |
②表紙は、背幅を考えないのでB5の倍=B4、364ミリX257ミリ | ||
③B4は四六全判から8つ、取り都合良く取ることができる | ||
④だが、レザック66の四六判は全紙Y目なので、8つで取るとB4にした時T目仕上げとなってしまい、表紙には不向き | ||
⑤従って、取り都合が悪くても四六判から4つ(ぎりぎりでも良ければ6つ)取って、B4に仕上げた時にY目となるように面付けする。 | ||
⑥レザック66の桜175kgには、同じ厚さで菊判Y目の121.5kgが規格として存在する。菊判から4つ取る方が四六判から4つ取るより取り都合が良いので、例題の場合は『菊全判から4つ取る』が正解。(菊判の規格がT目である場合は取り方も変わってくるので注意。) |
「他には、雑談を入れてみるとかね。」
「雑談?」
「例えば、シートくん、合成紙のユポにも目があるって知ってた?」
「え、そうなんですか?」
「ユポの平判の場合は、基本Y目が主体。ファンアウト現象で紙と同じように見当ずれを起こしたりもするから、結構要注意なんだけど、その目の表示の仕方がね、紙と逆なの。」
紙の場合 | ユポの場合 |
ラベルが「636X939」ならT目 ラベルが「939X636」ならY目 |
ラベルが「636X939」ならY目(ショートグレイン) ラベルが「939X636」ならT目(ロンググレイン) |
「ユポの場合はそもそもT目・Y目っていう言い方をしないんだけど、トリビアって感じで、ちょっと面白いでしょ?」
「紙と逆っていうのが、記憶に残りやすいですよね。」
話し合う二人の横から、ひょこっと顔を出したパレットちゃん、資料を眺めてにんまり微笑みます。
「シートくん、今度は『目』について教えるんだ~。シートくんにぴったりな題材だね。」
「?どういう意味ですか?」
「『守』『介』『掾』『目』の『目』でしょ?・・・『お~い、〇〇。これ清書しといて~』みたいな?」
「!先輩ひどいです。全国の『目』さんに謝って下さい!」
「全国の『目』さんが〇〇だって言ってるわけじゃないもん。シートくんが〇〇だって言ってるんだもん。」
からかうパレットちゃんとむきになるシートくんを前に、おろおろと、「清書なら私がするから・・・」と呟いてみるロール先輩なのでした。
(初掲載:2014年8月10日、加筆修正:2019年12月5日)