1. HOME
  2. ブログ
  3. 【紙のソムリエ】新入社員シートくんとロール先輩の紙修行 ⑬ ファンシーってどういう意味?~特殊印刷用紙~

【紙のソムリエ】新入社員シートくんとロール先輩の紙修行 ⑬ ファンシーってどういう意味?~特殊印刷用紙~

「はぁ~・・・・・・」
 自席に戻り、大きく溜息を吐いたシートくん。肩を落としながら、ちらっと辺りを窺うのに気付き、ロール先輩、仕方なく声を掛けます。
「どうしたの、シートくん?」
「聞いて下さい、先輩!」
 待ってましたとばかりにシートくん、畳み掛けます。
「さっき、パレット先輩に謝りに行ったんです。今まですみませんでした、これからはちゃんと社用封筒を使います、って。そしたら・・・」
「そうしたら?」
「すっごい優しい笑顔で、すっごく丁寧な敬語で、『そうして頂けると助かります、シートさん』って・・・」
「あー・・・まだ怒ってるんだ、パレットちゃん・・・・・・」
「先輩、僕、どうしたら良いんでしょう・・・・・・」

「どうって言われても・・・とにかく誠実に謝って・・・ああ、今までのお詫びに仕事手伝ってあげるとかはどう?」
「手伝うと言っても、僕、総務の仕事で出来る事ありません・・・」
「うーん・・・・あ、そう言えば!」
 ぽんと手を打つロール先輩、
「今度総務の主催で新入社員歓迎会をやるでしょ?チラシを作るんだけど、その紙を何にするか迷ってるって、パレットちゃん、言ってたよ。それを提案してあげれば?」
「歓迎会って、去年僕たちの世代もやって頂いたのですよね?今思うと、あのチラシって、在庫の色上だったような・・・」
「今まではそうだったんだけど、せっかくいろんな紙に出会える環境なんだから、それが実感できるチラシにした方が良いんじゃないかって、総務で話が出て、ちょっとだけど予算ももらえたんだって。だから、紙もちょっと凝ってみようかなって。」
「うーん・・・そういう話ならファンシーペーパーでしょうか・・・ところで、先輩?」
「?」
「改めて考えると、僕、ファンシーペーパーって何かってはっきり説明できないんですけど・・・」
「おや、いきなり深いことを言い始めたね、シートくん」

「ファンシーペーパーは、分類としては『特殊印刷紙』の1種ってことになってるんだけど・・・」
「色上と一緒の区分ですね。」

印刷・情報用紙 特殊印刷用紙 色上質紙
その他特殊印刷用紙 官製はがき用紙
その他特殊印刷用紙
(ファンシーペーパーはここに分類)

「この『特殊印刷用紙』の定義が、『特殊な用途に使われるもの』なんだよね。」
「広いですね・・・」
「広いでしょ?実は私も、はっきりこれがファンシーペーパー!とは説明できない。漠然とした言い方で申し訳ないけど、『特殊紙の一種で、色や柄や風合いがある、総じて綺麗で装飾性が高い紙』っていうくらいかな。」

「その説明だと、お客様には分かりづらいですよね・・・」
「仰る通り。まあ、一般のお客様には『ファンシーペーパー』って用語自体が通じないことも多いしね。私はお客様には『色とか柄とかついてて可愛い紙ですよ。見本帳お届けしますから、見てみて下さい。』って言っちゃうけど。ファンシーペーパーも、形状や製法によってある程度分類されるから、それで説明するとかね。」
「分類って?」
「えっと・・・・・・」

着色紙(プレーン) 多様な色が特徴。原則として、表面加工や柄加工などはされていないもの。
模様紙(マーク紙) 紙の抄造過程で、原紙を型がついた円筒やフェルトを巻いた円筒などに押し付けることで、紙に様々な模様をつけたもの。簀の目模様をレイド、表面がでこぼこになる模様を エンボス等と言う。レザック66やマーメイド等、古くから親しまれているものも多い。
抄き込み紙 木材繊維以外のチリ、毛等を抄き込んだ紙。OKミューズコットン等、コットン紙と呼ばれるものなど。
高級印刷紙 風合いのある表面に微塗工を施すなどして、印刷適性を向上させた紙。白を基調としたものが多い。
環境対応紙 環境に配慮した原料・製法で抄造されたファンシーペーパー。森林認証紙、非木材紙、再生紙、間伐材入り、竹パルプ紙、炭紙等。

「まあ、高級印刷紙とか環境対応紙は分類っていうより一般名詞って気もするけど。用途としては、表紙とか見返し、封筒、チケット、案内状、ケース、パッケージ・・紙自体の綺麗さとか表情を生かしたものが多いかな。」
「高級印刷紙は、カレンダーパンフレットなんかにも良く使われますよね。」

「でも、柄があるってことは、印刷の時にも色々注意が必要ってことですよね。」
「そうだね。主な注意点としては・・・」

  • エンボス加工の凸凹の上に印刷する場合、印刷が上手くのるかどうか
  • 抄造ロットの違いにより、色の違いが出る場合がある。1回の抄造量は一般紙に比べると少ない場合が多いため、使用量が多い場合はロットが混ざることもある点に注意
  • 柄の方向と紙の目の方向の関係に注意(製品によって、同方向の場合もそうでない場合もある)。折り加工が入る場合は特に、取り都合に気をつける。
  • 故意に表裏差が作られている製品も多い(表にはエンボスがあるが裏にはない、等)ので、表裏を間違えないよう注意
  • 製品によってはインクや印刷方法の指定がある商品もあるため、事前に製品の仕様を確認すること

「中にはUV印刷じゃないとダメっていう紙もあるから、お客様に提案する前に、注意点が無いか、工務や紙屋さんに確認してね。」

「なるほど。紙質がバラエティーに富んでる分、注意しなきゃいけないことも多いってことですね。・・・ところで先輩、ファンシーペーパーのファンシーってどういう意味なんですか?やっぱりファンシーグッズとかの可愛いイメージから?」
「ああ、それがね、教えて下さった特種東海製紙さんの担当者の方も『今となっては伝説じみた話で』って苦笑されてたんだけど・・・1950年代に、特種東海製紙さんでファンシーペーパーの開発に携わっていた担当者の方に、『この商品群に名前をつけるように』っていう社命が下ったんだって。」
「で?」
「『この商品のファンが欲しいなあ』から、『ファンが欲しい』⇒『ファンシー』になったって・・・」「・・・・・・」
「ああ、そう言えば、その商品開発って、特種東海製紙さんの岐阜工場で行われてたって話だよ。」
「え、じゃあ、『ファンシーペーパー』って岐阜生まれってことですか。」
「そういうことだよね。今では一般名詞みたいになっちゃったんで特に商標登録もしていないって仰ってたけど。」

「でも、『ファンシーペーパー』で、結果、良かったんじゃないでしょうか。可愛い、夢のあるイメージですよね。色も柄も豊富だし。」
「ファンシーペーパーが開発された当時は、柄が大きくて個性が強い、それ自体で完成品っていう製品が主流だったんだって。でも、だんだん、デザイナーさんなんかの要望で、印刷や加工をひきたてる、手助けをするような商品が開発されるようになって、今は柄の小さい、印刷適性や加工適性の高い商品が主流になってるらしいよ。」
「印刷や加工の手助けをする、か。なんか縁の下の力持ちって感じで、総務の仕事に似てますね。」
「それ、パレットちゃんに言ってあげなよ。喜ぶと思うよ。」

 パレット先輩に見本帳見せてきます、と出て行ったシートくんが戻ってきたのは、それから20分後。
「・・・えっと、どうしたのかな、シートくん。なんか、行く前より更にどんよりしてるよね?・・・・・・」
「・・・最初は良かったんです。見本帳見せて、提案して・・・パレット先輩も乗り気で、色々質問とかもして下さって・・・この紙は表裏の差が大きいから要注意ですよ、なんて話もして・・・」
「それで?」
「・・・その時に、『パレット先輩ってファンシーペーパーみたいですね』って言ったら・・・・・・」
「表裏差が大きいって話をしてる時に?!それ完全にタイミングおかしいよね?!」
・・・・・・そんなつもりは無かったんです・・・と更に落ち込むシートくん。その姿を見つめながら、シートくんには、悪気だけは無いんだよ、とパレットちゃんに分かってもらうにはどう説明すればいいんだろう・・・と、途方に暮れるロール先輩なのでした。

(初掲載:2013年4月10日、加筆修正:2019年11月15日)

関連記事