【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 32 描き易さも千差万別~筆記・図画用紙~
ある日の夕刻。営業から帰って来たシートくん、紙の見本帳の棚の前に立って、色々な見本帳を取り出しては眺め、首をひねっています。
「どうしたの?」
悩んでいる様子に、ロール先輩、声を掛けます。
「この前チラシを作らせて頂いた雑貨店のお客様なんですが、オリジナルのノートを作りたいそうなんです。どんな紙を提案すれば良いのか分からなくて、見本帳を参考にしようと思ったんですけど・・・『ノート原紙』っていう見本帳って、無いんですね。」
「ノート原紙・・・手配したことないなあ。」
「ノート原紙って紙は無いんですか?」
「いや、あるよ。でも、巻取しか見たことないけど・・・・・・」
「そもそも、先輩、ノート原紙って、上質紙や書籍用紙とは違うんですか?」
「同じ非塗工印刷用紙の分類だよ。えっと・・・」
「『印刷・情報用紙』>『非塗工印刷用紙』>『上級印刷紙』>『筆記・図画用紙』の一つってことですね。・・・筆記用紙と図画用紙は違うんですか?」
「ノートや便箋、帳簿用途が筆記用紙、描画、製図、スケッチブック用途なんかが図画用紙、だね。他にも、インデックスカードやステーショナリーペーパーもこの分類に入るみたいだよ。」
「製図用とスケッチブック用が同じ分類なんだ・・・なんだか不思議ですね。だって・・・・・・」
筆記・図画用紙に共通して求められる特性 | ①にじみが少ない ②裏抜けしない ③書き心地が良い ④毛羽立ちが少なく、表面強度が高い |
「・・・っていう点は共通していると思うんです。でも・・・」
描画用に求められる性質 | ①鉛筆書きの場合は、適度にラフ肌で鉛筆の線が乗ること ②水彩絵の具の場合、ぼかし効果を得られる吸収性があること |
製図用に求められる性質 | ①線画がはっきり描画される、平滑性があるもの ②伸縮が少なく、適度に引き締まった紙質であること |
「製図用なら、寸法安定性と均一な線が描ける平滑性が重要ですよね。でも、絵を描く用途なら、筆記具とか画材とかとの相性が良くて、出したい効果が出せるのが一番かな、と思うんです。その点で求められる紙質が、例えば平滑とラフ肌みたいに正反対になったりもするのに、同じ分類って、なんだか変な感じです。」
「まあ、分類だからね。勿論、各製紙メーカーさんは、用途に応じた最適な紙質を開発して供給されているよ。製図用途ならケント紙が使われることが多いけど、それだって、手書きかプロッター出力かによっても変わってくるしね。同じスケッチブックでも、鉛筆を使うのか水彩画かで求められる紙質は変わってくるから、それぞれに応じた紙を使う必要が出てくるよね。」
「ところで先輩、どうして鉛筆書きにはラフ肌の紙が向いているんですか?」
「別にラフ肌じゃなくても、非塗工紙であれば鉛筆書きに適していると言えると思うよ。鉛筆の芯が紙との摩擦で削れて黒鉛が紙の繊維に付着する。それが、鉛筆でものを書く、っていうことだから。・・・例えば、塗工紙なんかだと、非塗工紙より更に平滑性を上げている分、鉛筆と紙との摩擦が起きにくくなっている。コート紙のチラシの裏だと文字が書きにくいのは、そういう理由。」
「先輩、チラシの裏、メモ帳に使ってるんですか?」
「自分で製本もするよ?」
「・・・・・・」
「ノート用の原紙もね、それぞれのノートメーカーさんの要望に応じて製紙メーカーさんが原紙を作ってることが多いの。だから一般にはあまり出回っていない。平判で少部数なら、帳簿用紙や書籍用紙を使うか。紙質に凝るならファンシーペーパーを使うとかね。お客様に御提案するなら、その辺りかなあ。」
「分かりました。その線で選んで見本帳を持って行ってみます。」
「そう言えばシートくん、ノートにもJIS規格があるのは知ってる?」
「え?あるんですか?」
「別にJIS規格じゃないと販売できないわけじゃないから良いんだけどね。ノートにも厳密にJIS規格が決まってるの。坪量とか白色度とか不透明度とか。でね、このサイズの規定がちょっと面白いんだよね。」
サイズを号数で表示するんだけどね・・・と話し始めた二人の傍を通りがかったパレットちゃん、にっこり笑って話しかけます。
「お話し中ごめんね?シートくん、ブック部長から何か頼まれてなかった?」
パレットちゃんの指摘に青くなるシートくん、慌てて二人に頭を下げ、ブック部長の席へと駆け出します。後ろ姿に溜息を吐いて、パレットちゃん、「ロールちゃんもね。シートくんのこと、甘やかしすぎ。分からないことがあれば何でも先輩に聞けば良い、って思っちゃうよ?」と忠告します。
「あはは・・・まあ、気をつけるね。」
「どうかな?・・・シートくんって、同じ黒鉛でも、鉛筆じゃなくてトナーの方だよね。」
無駄に熱いし、消しゴムでも消せなくなっちゃうよ、と笑うパレットちゃんに、定着されちゃうのは嫌だなあ、と、少し薄情な言葉を口にするロール先輩なのでした。
(初掲載:2014年11月10日、加筆修正:2019年12月6日)