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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 39 意外と熱にも?~紙とインキと印刷方法②~

「ただいま戻りました~」
ある日の夕刻、事務所に駆け込んできたシートくん。
「結構降って来ましたよ。」
雨の中の外回りで、肩の辺りがびしょ濡れです。
「お帰りなさい。お疲れ様。」
声を掛けながらロール先輩、タオルを差し出しますが、自分より先に営業かばんを拭き始めたシートくんに苦笑します。
「また風邪ひくよ。」
「人間は風邪ひいても治りますけど、紙類が濡れちゃうとどうしようもないですからね。」
「紙屋さんや印刷会社さんの企画書が波うちでぼこぼこ、なんて、しゃれにならないもんね。」
「かと言って、毎回書類を耐水紙で作成するわけにもいかないですし。」
と、シートくん、そう言えば、とロール先輩を振り返ります。
「小売店のお客様が合成紙をレーザープリンターで印刷した、って仰るんですよ。やめた方が良いですよ、って言ったんですけど、紙屋さんが大丈夫って言ったからって。」
不思議そうにシートくん、首を傾げます。
「僕、合成紙は熱に弱いから、コピーやレーザープリンターはダメ、って教えてもらったと思うんですけど。」
「ああ、この前シートくんが風邪をひいた時に、その話もしようと思ってたんだよね。」
ロール先輩、にっこり笑って続けます。
「昔はよく、紙屋さんに、合成紙をコピー機で使うとドラムに紙が貼りついてコピー機の方が壊れますからねって脅されたから。シートくんが教えてもらった話はその流れだと思うよ。原則的には変わってないとも言えるけど、今の合成紙は色々だからね。一律に合成紙は特殊インキを使ってオフセット印刷で、ってことではなくなってきてるんだよね。」

「国産の合成紙の主な銘柄は・・・」
「『ユポ®』、『オーパー』、『ピーチコート』、でしたね。」
「合成紙っていうひとくくりで説明されることが多いけど、その3つとも、それぞれに作り方が違うんだよ。」

合成紙の製造方法
ユポ® 二軸延伸フィルム方式、と呼ばれる方法。
原料である合成樹脂に薬品を加え、軟らかくして、練って、押し出して、成型する。フィルム状にした後、再び温めて軟らかくし、縦横それぞれの方向に引っ張ることで、フィルムに目には見えない小さな穴(ミクロボイド)が開く。この穴のおかげで、紙のような不透明度、高白色度、印刷・筆記適性などが得られる。
『ユポ®』の場合は、真ん中の層(基層)は縦横二方向、表裏の層(表層)は横方向にのみ引っ張って延ばす三層構造を取っている。このため、『ユポ®』には目なりがある構造となる。各種用途に応じて塗工されているものもある。
ピーチコート ミクロボイドを作っていない普通のプラスチックフィルムの表裏に、顔料を塗布して、白色度、不透明性、筆記・印刷適性などを得る方法。
オーパー 紙の基層の表裏に合成樹脂をラミネートして耐水性を得る製造方法。合成樹脂の部分に小さな穴を開けることで印刷適性を持たせている。

「それから、使っている合成樹脂の違いで分けると、今度は『ユポ®』と『オーパー』、『ピーチコート』、っていう風に2つに分けられる。」
「どんな風に違うんですか?」
「『ユポ®』の原料はポリプロピレン、『オーパー』の表面の樹脂はポリオレフィン系樹脂、『ピーチコート』は一部ポリプロピレンもあるけど多くがポリエステル(PET)だって公表されてるね。」
「それだと3つとも違うってことなんじゃ?」
「ああ、ごめんね。私も詳しいわけじゃないから大雑把な説明になっちゃうけど、今原料として上げられた合成樹脂って、大きく分けると、ポリオレフィン系とポリエステル系に分けられるの。ポリプロピレンはポリオレフィン系、PETはポリエステル系だから、『ユポ®』と『オーパー』がポリオレフィン系、『ピーチコート』がポリエステル系ってことになる。」

「ひょっとして、製造方法の違いとか原料の違いとかが耐熱性に関わってくるとか?」
「鋭いね。あくまで素材としての話なんだけど、日本プラスチック工業連盟他のホームページによると、ポリプロピレンの耐熱温度が100~140℃くらい、PET(延伸)の耐熱温度が200℃くらいまで。コピー機やレーザープリンターのトナーの定着温度が大体150~200℃前後だっていう話だから・・・」
「ポリプロピレン製の『ユポ®』や、同じポリオレフィン系の樹脂がラミネートされている『オーパー』は、コピー機やレーザープリンターでは使っちゃダメってことですね。」
「PETだとしても、素材としてだけならどうかな、っていう温度だけどね。でも・・・」
「『ピーチコート』は元々素材自体が比較的熱に強い。その上、用途に応じてコーティングされているから、コピーやレーザープリンターに使用できるものもある。」
「そういうこと。あと、『オーパー』でもレーザープリンター向けの品種がラインナップされてるから、お客様が使っておられたのはそれかもしれないね。」

レーザープリンター向け合成紙
レーザーピーチ 『ピーチコート』シリーズの一つで、レーザープリンター向けに開発されたもの。基本的にはプロダクションプリンター(オンデマンド印刷などに使う、商用の、トナーの転写や定着の調整機能に幅があるプリンター)での使用を想定しているが、汎用レーザープリンターで使用可能なものもある。
オーパーMDP 『オーパー』シリーズの一つで、レーザープリンター対応品。ECFパルプや古紙パルプを使用した紙の基層に、融点約230℃の高い耐熱性を持った樹脂をラミネートし、更にコーティングを施した構造。

「ちなみに、インクジェットプリンター向けだと・・・」

インクジェットプリンター向け合成紙
ユポジェット® 『ユポ®』の表面にインクジェット用のコーティングを施したインクジェット専用紙。水性顔料用と染料/顔料共用タイプ、クロスを貼り合せたものやタック品など、色々な種類がある。
ピーチジェット 日清紡ペーパープロダクツのインクジェット専用紙の総称で、合成紙は『VSIP』の記号が付くもの。水性顔料インク用。

「他にも、『ユポ®』に、HPのIndigo専用に特化した『YPI』っていう品種もあるよ。」
「あれはちょっと、普通のプリンターと一緒にしちゃいけないような・・・でも、他のものも、プリンターとは言えオンデマンド用の、商用のプリンターでの使用を想定している感じですね。」
「そういうものもあるけど、汎用プリンターでの使用を想定しているものもあるよ。例えば、スーパーさんなんかで急に冷凍食品の特売をやることになって、1枚だけ水に強いPOPを作りたい、とかの場合だね。ただ、汎用のプリンターって、細かい調整ができない場合も多いから、紙との相性が重要になってくるんだよね。」
「そう言えば、僕に話してくれたお客様も、紙送りが上手く行かなくて手差しで印刷してるって仰ってました。」
「紙送り、排紙、トナーの定着、タックだと糊の問題・・・それぞれのプリンターの専用紙を使ったとしても色々なトラブルが起こることがあるって聞くよ。メーカーさんでは、推奨プリンターを公表していたり、見本紙を提供して必ず試し刷りをするようにお願いしていたりって対策を講じておられることが多いね。」

合成紙と言えば合成紙用インキ、だけど、そのインキの選択にも合成紙の原料が関係していてね・・・話を続けようとするロール先輩の背中に、
「ロールちゃん、仕事終わった?帰ろ?」
パレットちゃんがぴたりとくっつきます。
「ちょっと待って、パレットちゃん、今シートくんと話をしてるから・・・」
「え~」
ロール先輩が嫌がるのが楽しいのか、ふざけて身体をこすりつけ、更にくっつこうとするパレットちゃんを見て、(あ・・・静電気・・・・・・)と、シートくん、ひらめきます。
(そうか・・・紙送りのトラブルって、静電気の所為の重送かも・・・それなら捌きをいれれば解決するかな・・・・・・)紙送りが上手く行かない、とこぼしていたお客様の顔を思い浮かべながら、ヒントをくれたパレットちゃんに密かに感謝するシートくんなのでした。

※ユポ®、YUPO®、優泊®およびイ尤泊®は、株式会社ユポ・コーポレーション様の登録商標です。

(初掲載:2015年6月10日、日清紡ペーパープロダクツ様は2019年現在のダイオーペーパープロダクツ様になります。加筆修正:2019年12月7日)

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