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【紙のソムリエ】シートくんとロール先輩の紙修行 47 電気は得意?~製紙と発電~

昼休み。難しい顔でスマホをいじるシートくんに「どうしたの?」ロール先輩が声を掛けます。
「昨日友達と話していた時に電力自由化の話になって。」顔を上げるシートくん。
「要は、この4月から、電気を買う電力会社を自由に選べるってことですよね?ひょっとしたら電気代が安くなるかもしれない。でも、じゃあ、実際にどうすれば良いかとなると、良く分からないなと思って・・・」
「色んなプランがあるもんね。既存の電力会社以外だと、今話題になってるのだけでも、ガス会社、携帯電話会社、ガソリンスタンド、コンビニ、旅行代理店・・・スーパーマーケットで野菜と一緒に電気が買えるなんてのもあるし、鉄道会社がケーブルテレビと電気をセットで売るっていう話もあるし。」
「プランによって割引とかポイントとかも色々で、考えているうちに分からなくなってきちゃって・・・」
「サービス対象地域が限られている場合も多いから、ある程度選択肢は狭まっちゃうけどね。」
でも、色々考えて迷うのも楽しいよね。そう笑うロール先輩に、シートくんがポツリと問い掛けます。
「そう言えば、登録小売電気事業者のリストを見てたんですけど、この『王子・伊藤忠エネクス電力販売株式会社』の『王子』って・・・」
「ああ。王子ホールディングスさんのことだよ。正確には子会社の王子グリーンリソースさんだったと思うけど。」
「やっぱり。でも、製紙会社さんって電気に関係あるんですか?」
「あれ、聞いたことない?製紙会社さんは電力に関して結構優等生なんだよ。」
「え?」

「シートくん、紙の作り方は覚えてる?」
「えっと・・・」

①パルプ化 木材チップや古紙などから紙の原料であるパルプを製造する。
②調成 パルプ繊維を叩いてほぐし、薬品を加え、ゴミや空気を取り除いて紙の原料にする。
③抄紙 原料のパルプをシート状にし、塗工や加工などを施して紙に仕上げる。

「こんな順番ですよね。」
「抄紙のところをもう少し詳しく言うと?」

①ストックインレット 原料を水中にムラなく分散させ、ワイヤーの上に均一に送り出す部分。原料濃度は0.5%程度で、残りの99.5%が水分。
②ワイヤーパート 原料が網の上に吹き付けられ、送られる過程で水分が網の下に落ちて脱水され、紙の層が形成される部分。水分が99%から80%程度まで絞られる。
③プレスパート 湿紙がフェルトに乗せられ金属製のプレスロールを圧しつけられてさらに絞られる部分。水分は55%程度になる。
④ドライヤーパート 低圧の蒸気で加熱したシリンダーの間を紙が通ることで、水分が蒸発し脱水される部分。水分は6~10%程度になる。

「そこ!」
「どこですか?」
「ドライヤーパート。その前の工程もそうなんだけど、紙って手漉き和紙の作り方と同じで、水の中に分散している紙料を網ですくって絞って乾かして紙にするでしょ?で、手漉きだと天日干しで乾かすのが普通だけど、一般的な機械抄きの場合には蒸気で熱した金属ロールに押し当てて乾かす方法が採られている。この金属を熱するために作られる蒸気でタービンを回して発電するっていうことが、製紙メーカーさんではずいぶん以前から行われてきたんだよ、それこそ電力自由化の話が出て来るずっと前からね。」
「つまり、製紙会社は元から発電のノウハウを持っていた?」
「そういうこと。抄紙機を動かすのに電力が必要だから、それを自家発電で賄って、発電に使い終わった蒸気を紙の乾燥にも使って、っていう風にね。で、最初は発電した分を自社やグループ内の工場で使うだけだったのが、余剰分を電力会社に売るようになって、今では立派な収益の柱の一つにもなってるってわけ。」

「そう言えば、製紙の過程でできた副産物をゴミにするんじゃなくて利用してるって話、聞きますよね。」
「蒸気を発電にも紙の乾燥にも使うっていうのも、何も無駄にしないって考え方の延長かもね。あと、パルプを作った残りからバイオプラスチックの原料を作ったりとか、蒸気を作るために燃やした石炭の灰からコンクリートの耐久性を上げる製品を作ったりとか。」
「発電の燃料って石炭なんですか?」
「元は石炭とか重油の化石燃料が主だったんだけど、そこも改良されて、化石燃料以外の再生可能な有機資源を使うバイオマスボイラーも増えてきている。例えば・・・

黒液 木材チップから紙の原料となるセルロースなどを分離した残りの廃液。バイオマス燃料として利用されている。
未利用材 間伐材などのうち、今まで利用されていなかったものを木質バイオマス燃料として利用。
RPF 再生困難な古紙や、廃プラスチックなどで作られた固形燃料。

なんかが燃料として使われていて、今ではそういったバイオマス燃料や廃棄物燃料が50%以上を占めるって話だよ。」

「バイオマス発電自体が『再生可能エネルギーによる発電』に当たるんだけど、他にも製紙会社さんでは、太陽光発電や水力発電にも積極的って言えると思うよ。そもそも王子製紙さんが苫小牧工場用に水力発電所を作ったのって、明治時代の話だしね。」
「再生可能エネルギーか・・・それも電力会社を選ぶ一つのポイントになるって言われてますよね。」
「そうだね。今のところ、製紙会社さんが直接個人に売電する計画があるわけじゃないみたいだけど、例えば日本製紙さんが中部電力さんと一緒に火力発電所を作って新電力に売電したりっていう話はあるからね。今後、製紙会社さんの再生可能エネルギーで発電した電力が個人のおうちにってことが出て来るのかも。」
「トイレットペーパーをエリエールにするかクレシアかネピアかって選ぶみたいに、電力を製紙会社で選ぶ日が来たりして。」
盛り上がる二人の前に、
「あ、二人ともここにいたんだ。・・・これ、どうぞ。」
パレットちゃんがすっと、見た目は同じ二粒のチョコレートが乗ったお皿を差し出します。
「一つは一粒1,000円の高級チョコレート。もう一つは安い板チョコを溶かして固めたの。どちらでもお好きな方をどうぞ。」
トイレットペーパーのメーカーでの違いが分かるシートくんなら、チョコの違いも分かるよね。そう言われて固まるシートくんを見ながら、(わざわざこれをやりたいがために、一粒1,000円なんていうびっくりぽんな値段のチョコを買ったんだね、パレットちゃん・・・)と溜息を吐くロール先輩なのでした。

(初掲載:2016年2月10日、加筆修正:2019年12月9日)

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